「貴方は上を見るか下を見るか。分断された世界の行く末とは。」ドント・ルック・アップ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
貴方は上を見るか下を見るか。分断された世界の行く末とは。
惑星キラーの彗星が地球に向かっていることを田舎の大学教授とその教え子が発見したことから巻き起こる人類滅亡狂騒曲。
なるほど、謳い文句の「実話に基づく」の通り、彗星衝突こそフィクションだが、それを今のコロナ禍に当てはめれば実話と言っても過言ではないかも。
自らの政治的利益しか考えない、まさに女トランプのような大統領を熱演した往年の大女優メリル・ストリープを筆頭に、たちまち時の人としてマスコミに持ち上げられ浮かれてしまう大学教授をディカプリオが、利益追求しか頭にない神経質なスマホ会社のCEOをマーク・ライアンスが、そして視聴率至上主義の申し子のようなキャスターをケイト・ブランシェットが見事に演じた。
ネトフリ史上最大のヒットも頷ける豪華なキャスト陣に加えて、社会風刺はお手のもののアダム・マッケイとなれば面白くないわけはない。
ちょうど一年前にアメリカで起きた連邦議会襲撃事件。死者を5名も出す参事であったにもかかわらず、いまだに選挙は盗まれたと頑なに信じ続けている人々が大勢いる。情報化社会の現代において、様々な流言飛語が飛び交う中、陰謀論が幅をきかし真実を見極めることがかくも困難な時代なのであろうか。
アメリカのコロナによる死者数は現時点で80万人を超える。彗星衝突程ではないにしても、ここまでの被害拡大を抑えることはできなかったのだろうか。
コロナを軽視してマスクもせずに、同じくマスクをしない多くの支持者を集めての政治集会で感染拡大に一役買ったトランプ。彼をいまだに支持し、彼の言説を盲信する人々を揶揄するかのように、劇中上を見るな下を見ろと大統領に言われるがままに叫ぶ群衆の姿が描かれる。彼らは彗星が目視出来てはじめて騙されたことに気づくが、所詮後の祭りだ。
マスクをするかしないか、ワクチンを打つか打たないか、そして上を見るか見ないか、それを選択する自由はもちろんある。しかし、真実を見極めずに誤った選択をすれば、時としてそこから生ずる責任を自ら負うはめとなる。
人類に襲いかかった未曾有の大災害、それは人類の今の科学力をもってすれば回避可能なはずだった。そういう意味では「災」というよりもコロナ禍の「禍」の方がしっくりくる。「災」は避けようのない天災を意味するが、「禍」は人為的に避けることが出来るという意味で、コロナ同様に努力次第で被害を最小限に抑えらえるはずだった。それが愚かな為政者により最悪の事態を迎えることに。きっと星のせいじゃない。
アダムマッケイらしい、まさに現在のアメリカを皮肉ったと同時に、どこの国でも起こりうる分断を見事に描いた作品。
ちなみに私はブロンテロックに食われるよりも、最後の時は愛する家族に囲まれて迎えたい。
2022年1月8日、シネリーブル梅田にて鑑賞。
