「もっと、よく見て」ドント・ルック・アップ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
もっと、よく見て
巨大彗星の地球衝突が判明。
レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンスら豪華クルーがロケットに乗って立ち向かう…!
…なんて90年代に流行ったSFディザスター・パニックを今更やる訳ない。
だって、監督は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』『バイス』のアダム・マッケイだもの。
地球に衝突する可能性がある巨大彗星を発見したうだつの上がらない天文学者のミンディ博士と、教え子の大学院生ケイト。その彗星が衝突したら、地球上の全生物どころか、地球自体が…!
すぐさま大統領に危機を伝えようとするが…、散々待たされ、翌日まで待たされた挙げ句、大統領オーリアンと息子の補佐官ジェイソンは選挙や支持率以外関心無く…。
ならば、メディアへ。ブリーとジャックのニュース番組に出演。大統領も関わる最高裁判事のスキャンダル、人気歌手のインタビューの後、やっと出番。が、陽気な番組故、危機が伝わらず…。
SNS上では誹謗中傷。泣き叫んでまで事の重大さを訴えたケイトの顔はパロディ・キャラ化され、キチ○イ、笑われ、コケにされ…。
のっけからマッケイならではの風刺劇。快テンポで進んでいき、笑えるけど、チクッとする。
だけど、もし本当に巨大彗星地球衝突が判明したら…?
世の中の反応、こんなもんなのかなぁ…。
だ~れも信じない。
警告する人をキチ○イ扱い。
これは自然破壊や環境汚染にも通じる。
都合の悪い事実から目を反らす。
それが本当に起こって初めて慌てふためく。
皮肉たっぷりだが、“ドント・ルック”な世の中。
機密情報漏洩で政府に身柄拘束。
が、意外にも政府が計画やチームを立ち上げ、協力してくれる事に。
努力が実った!
…でも実は、支持率が上がらない大統領がこれを使って国民の支持を得たいだけ。
各々の内心はどうあれ、地球を救う望みの一歩が…。
計画はシンプル。
ロケットに核ミサイルを搭載して、発射。彗星を粉砕。
地球最強のアメリカ軍。地球最強の武器、核ミサイル。もはや鉄壁、完璧。
発射の日。地球の命運を託してーーー。
…あれ? ロケットが引き返して来たぞ…?
何かトラブルか…? 故障か…?
否! とんでもない理由。
この計画の出資者、大企業CEOで世界指折りの大金持ちのピーター。彼独自の調査によると、彗星には数百兆ドルにも及ぶ鉱物が…!
彗星を破壊するのはあまりにも惜しい! 何とか分解とかして、掘り出そう!
皆の目はドルマーク。勿論、国民には内緒。金持ちだけの特権。
共に行動していたミンディとケイトだが、袂を分かつ。
メディア受けが良かったミンディは引き続きTVに出たり、雑誌の表紙を飾ったり、ブリーといい関係になったり。が、家庭持ち。遂に妻にバレ…。
元々政府から目の上のたんこぶのケイト。彗星発見者なのにも関わらず、今後一切彗星に関わらない事を条件に政府から厄介払い。政府の考え、対応にいい加減呆れに呆れ…。故郷の家族の元に帰るが、家族からも見放され…。スーパーでバイト。その時出会った青年ユールに癒され…。
二人共、自分たちが見つけた彗星によって人生が狂わされる。
…いや、正確に言えば、取り巻く連中の私利私欲によって、か。
お察しの通り、ジャンル的には“ディザスター・パニック”だが、大迫力のVFXスペクタクル・シーンやパニック・シーンはほとんど皆無。
地球の危機を、自らの支持率アップにまで利用。
今のアメリカを風刺化したブラック・コメディ。
これは、笑えるコメディか、笑えぬコメディか。
いつもながらのマッケイの手腕と脚本が冴える。
そして、アンサンブル劇でもある。集まったディザスター級の超豪華スター。
情けないディカプリオ、感情爆発のローレンス、ヘンな佇まいの金持ちマーク・ライランス、ビ○チなニュースキャスターのケイト・ブランシェット、強烈インパクトの女性大統領メリル・ストリープ…以上、オスカー受賞経験者。
他にも、言動が鼻につく補佐官ジョナ・ヒル、実は一番まともそうな若者ティモシー・シャラメ、今時な女の子アリアナ・グランデ、時代錯誤なロン・パールマン、ニュースキャスターをクールに演じるタイラー・ペリー…キャストのギャラだけで幾ら??
中でも、唯一ミンディとケイトに協力する学者テディを演じたロブ・モーガンの好演が良かった。
ミンディとケイトは政府に頼らず、もう一度やり直し。政府の汚いやり口や内事情も暴露。
“ルック・アップ”
それに対し政府は、
“ドント・ルック・アップ”
スローガン掲げ、二大陣営の闘い。もうSFディザスター・パニック見てるより、選挙劇を見ているようだった。
と言うより、SNSを使っての誹謗中傷合戦は明らかに奴、か…。
ミンディとケイト側で思わぬ事故。全ての対策、望み、可能性が絶たれた。
ラストは秀逸。ネタバレチェックで触れるが、
ミンディとケイト、ユールやテディも含め、ヨリを戻したミンディの妻子と共にミンディの家で、最期の時を過ごす。
最期の最期で、穏やかな時。大切なものは、ここにあった。
一方…
上を見たら、マジで彗星が接近していた…!
国民皆、初めて大パニック! “ドント・ルック・アップ”と言っていた政府へ大非難。
が、逆にこれは好機。ここで政府が彗星を破壊すれば、アメリカTHEヒーロー!
20数基のミサイルロケットを準備して、発射!
トラブル発生。いきなり数発失う。これくらい、問題ナシ!
着弾!
…効果ナシ。彗星は原型を留めたまま。
…あれ、作戦と違う…。
…あれ? 気付いたら、いつの間にか大統領やピーターらの姿が居なくなって、司令室にはジェイソン一人…。ママ~。皆、戻ってくるよね…?
ハリウッドのこの手の作品の場合、ヒーローみたいな主人公が居て、必ず地球を救うが、本作は、
主人公のディカプリオらは幸せな最期を迎えて死亡。
大統領は無様に逃げ出す。
それどころか、本当に地球に彗星が衝突して、終焉。
ハリウッド・ディザスター・ムービーとして異色の終わり方。
風刺たっぷりのSF爆笑劇…と、ただ見てもいいが、
ラストの碎けた地球。まるで、人間の傲慢(自然破壊、環境汚染、核開発)が続けば、地球はこうなると言ってるような気がした。
劇中の彗星はそれを代弁し、表したのだ。
“ルック・アップ”。もっと、よく見て。
それに対しての“ドント・ルック・アップ”。上を見るな。
劇中では大統領側のスローガンだが、現実世界では皮肉にも自分たちに降り掛かる。
都合の悪いもの、見たくないものから目を反らす。
思い当たる連中は少なくない筈。
エンディング後の映像。
あの連中があそこで生きられるとは思えねーし。