劇場公開日 2021年12月10日

「人は信じたいものを信じる、その絶望を延々いじり倒す凶悪さは『日本沈没』よりも遥かに痛烈。レオ様の最高傑作に突然躍り出た爽快感がハンパないSFコメディ」ドント・ルック・アップ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人は信じたいものを信じる、その絶望を延々いじり倒す凶悪さは『日本沈没』よりも遥かに痛烈。レオ様の最高傑作に突然躍り出た爽快感がハンパないSFコメディ

2021年12月13日
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鑑賞方法:映画館

大学院生のケイトはすばる天文台で天体観測中に新しい彗星を発見、ミンディ教授以下の観測チームは世紀の発見に狂喜するが、ミンディ教授が軌道を計算するとその彗星が地球に衝突する可能性があることが判明、残された時間は半年余り。一刻も早く世界中に知らせようとオグルソープ教授の協力を得てホワイトハウスを訪れるが、オーリアン大統領はスキャンダルの渦中にあり地球の危機どころではなかった・・・というツカミから疾走する社会風刺コメディ。

人類滅亡の危機がそこまで迫っているという余りにも突拍子もない兆候が絶望的過ぎて誰も信じてくれないという焦燥を延々こする序盤。眉間に深い皺を寄せて奔走するミンディ教授を演じているのがでっぷり太ったレオナルド・ディカプリオ、彼と行動を共にするケイトを演じているのが鼻ピアスのジェニファー・ローレンスというもうこれ以上ないレベルの見事なタッグの熱演が大爆笑。そこに立ちはだかるオーリアン大統領、首席補佐官のジェイソン、人気番組“デイリー・リップ”の人気キャスターのブリーといったクセしかない強烈なキャラクターをメリル・ストリープ、ジョナ・ヒル、ケイト・ブランシェットといった豪華スターが軽妙に演じているので緩急入り乱れる様々なギャグの応酬が腹筋に過大な負荷をかけてきます。中盤以降はいよいよ危機に立ち向かおうとする人類に知らされる彗星の正体、暗躍する大企業の陰謀といった燃料が投下されていよいよ物語は更に加速し、ブチ込まれるギャグもどんどんとエゲツなさを増していきます。

要するに、“人はただ自分が信じたいものを信じるのであってエビデンスの有無は全くもってどうでもよい“と言う全世界で疫病のように蔓延する風潮を、トランプ政権下での数々の愚行やGAFAの台頭をはじめとする様々な現実を巧みにフィクションに取り込んでこれでもかと皮肉り倒して観客をキリキリ舞いさせた後に壮大かつ元も子もないオチに突き落とします。この辺の意地の悪い凶悪さは『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』辺りと通じるものがあり、実録ドラマでは抑制が効いているアダム・マッケイの底意地の悪いハイセンスなシャレが解き放たれた感あり、これ以上ないくらいの爽快感が終幕に漂います。

アダム・マッケイ作品なので尻尾の先までシャレが詰まっているのをご存知ない方が多いのか、ただでさえ少ない40名程度の観客のうち、4、5名がエンドロールの最中に退席。残念ながら彼らは本作のホントのオチを知らずに帰宅してしまったわけで他人ながら気の毒でなりません。本作に限らず客電が落ちてから点くまでが映画、メンドくさいとは思いますが、トイレはこれでもかというくらい繰り返し上映前に行っておいた方がいいと思います。

よね