「氷上の『恐怖の報酬』かと思いきや、複数のドラマが絡み合うエモーショナルなカナダ版『トラック野郎 一番星北へ帰る』でした」アイス・ロード よねさんの映画レビュー(感想・評価)
氷上の『恐怖の報酬』かと思いきや、複数のドラマが絡み合うエモーショナルなカナダ版『トラック野郎 一番星北へ帰る』でした
トラックドライバーのマイクは弟で整備士のガーティと二人三脚で生計を立てているが、ネズミにスキーターと名付けて可愛がる心優しい男であるガーティはイラク戦争の従軍でPTSDによる失語症で周囲とうまくコミュニーケーションが取れないことから勤務先でからかわれ、ガーティを庇うマイクが相手を殴ってしまい二人とも解雇されるということを繰り返していた。そんな折カナダのマニトバ州にあるダイヤモンド鉱山で坑内に充満したメタンガスが爆発し、作業員26人が坑内に閉じ込められる事故が発生。坑内に充満したメタンガスを抜くためには30トンもの坑口装置が必要だが近くの滑走路は短く輸送機で運搬することは出来ない。坑内の酸素が尽きるまでの推定時間は30時間、残された方法は厚さ80センチの氷の上を走るアイス・ロード経由での陸路輸送しかない。アイスロード上の運転は非常に難しく、速度が早すぎると振動で氷が割れ、遅すぎても自重で氷が割れてしまう。運送会社を経営するジムはこの危険な任務を請け負いすぐさまドライバーを募集、集まったドライバーの中から選抜されたのはマイクとガーティ、そしてジムの会社の女性ドライバーだが問題を起こして勾留中のタントゥー。3台のトラックそれぞれに口腔装置を積み込み1台でも搬送が成功すれば報酬は20万ドル。4人と鉱山会社の保険数理士ヴァルナイは3台に分乗して出発するが、5人には想定外の危険が迫っていた。
まず最初に言っておきますが、これはかなり衝撃的な傑作。及第点のB級アクションを期待していると冒頭15分くらいで盛大に裏切られます。物語は勝手に想像していた以上に複雑で、命懸けのミッションに挑む5人を描くメインストーリーに加えて、坑内の26名に残されたある疑惑、一刻も早く救助をしたい鉱山会社の経営トップとは明らかに異なる顔色を見せる鉱山現場の上層部、ガーティを愛しつつもいつまで経っても改善しない症状に苛立つマイクの胸の内、ジムとタントゥーとの間に浮かぶ確執の影といった要素がブチ込まれていて、氷が割れるか割れないかという単純さとは次元が異なるスリリングなサスペンスがスピーディに錯綜する分厚いドラマ。序盤から少しずつばら撒かれる伏線を丁寧に回収しながらも、こちらが勝手に想像している凡庸な展開を絶妙にかわして号泣必至のクライマックスに導く手腕は実にお見事。複雑なプロットを手堅くコンパクトに纏めた監督兼脚本ジョナサン・ヘンスリーは『ダイ・ハード3』の脚本で注目を集めて以降数々の大作アクション映画の脚本を務めた大ベテラン。偉大なプロデューサーにしてジェイムズ・キャメロン、ブライアン・デ・パルマの元妻ゲイル・アン・ハードの3人目の夫だそうで、そりゃこれくらいの仕事は朝飯前でしょうと勝手に納得しました。
近年の主演作にこれでもかと贖罪を滲ませるリーアム・ニーソンは本作でもほとんど笑顔を見せることなく自らを激しく叱咤するかのような熱演を披露。ドラマの中盤から観客の心をグラグラに揺さぶってきます。そして印象的なのは先般鑑賞したばかりの同じくリーアム・ニーソン主演の『マークスマン』でガソリンスタンドのレジ係というチョイ役ながら鮮烈な印象を残したアンバー・ミッドサンダー。ネイティブアメリカンで、屈強な男達を相手にしても一歩も引かないタフなドライバーで坑内に残された作業員の兄を助けたい一心で危険な任務に挑むタントゥーを好演、今後のB級アクションでの活躍を勝手に期待してしまいます。