劇場公開日 2022年11月11日

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「オーガニック幻想論」土を喰らう十二ヵ月 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0オーガニック幻想論

2025年5月10日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ハッキリとは覚えていないが、この作品の予告編が松竹系の劇場で流れ始めたのはコロナが始まる前後辺りだったと思う。途中で撮影が止まったりしていたのかも知れないが、公開まで随分かかったという印象が強い。

13年ほど前に妻を亡くした作家のツトムは信州の山里の村に住み、畑の野菜や山で採れた山菜などを自らの手で調理して食べ、その様子をエッセイとしてまとめている。時折り訪れる、娘ほどの歳の編集者のマチコとは恋人の関係で、作った料理を一緒に食べることがツトムにとって至福の時間になっている……。

原案は水上勉の随筆。年始から年末までの一年間を歳時記に沿ってすべて手作りの旬の料理を食べていく生活は、半世紀くらい前までは日本のあちこちで普通に見られた姿であろう。祖母が梅干しを干したり、祖父が白菜を何樽もつけたりしている姿は、子ども時代の自分にとっては当たり前の光景だった。

巷ではヴィーガンが大流行りで、スローライフに憧れ、自給自足の生活を夢見る人は決して少なくはないと思う。実際、劇中に登場する(土井善晴の手による)素朴な料理はどれも美味しそう。

で、お前はそんな生活を送りたいか?と問われたら、休暇で気分転換に1日か2日するのはいいけれど、年間を通して毎日は絶対に嫌。なんだかんだで利便性を享受したいというのが、意識低い系の個人としての本音。

実際、ウチの人間には優しいがソトの人間には冷たいムラ社会からどんどん逃げ出していったのが、この半世紀だろう。幻想論・理想論ではなく、いったいどれだけの人がそんなところに戻りたいのだろうか?でも、ムラ社会のメンタリティは、現代社会の中に、いまだに色濃く染み付いているんだけどね……。

Tofu