「新生児取り違え≠スペイン内戦」パラレル・マザーズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
新生児取り違え≠スペイン内戦
ペドロ・アルモドヴァル監督が『オール・アバウト・マイ・マザー』『ボルベール 帰郷』に続いてペネロペ・クルスを三度迎えて“母”を描く。
自身を投影させた『ペイン・アンド・グローリー』を経て馴染みのフィールドに戻ってきた。
題材としては“新生児取り違え”。
決して目新しい題材ではないが、このスペインの鬼才が手掛けるとどうなるか…?
定番の血か過ごした時間かとか感動とか病院や社会への訴えなどに非ず。
40歳で妊娠したジャニスと17歳で妊娠したアナ。
同じ病室となり、交流を育み、ほぼ同時に出産。
ジャニスは相手の男性(妻子持ち)から似てないと言われ、DNA検査をした所、親子関係ナシ。
アナと再会。アナの子(つまりジャニスの子の可能性)は僅か1歳で亡くなったという。
死んだのは自分の子かもしれない。今自分が育てているのはアナの子かもしれない。
しかしジャニスはその事を打ち明けず。
子を失った母親と、本当かもしれない我が子の死を知らされながらも全てを伏せる母親。どっちが苦しく悲しいか。
この二人以外にもう一人、母親がいる。アナの母親。
女優業を優先し、育児には非協力。
そんな時ジャニスと再会し、交流再開する。
ジャニスに想いを寄せるアナ。
母娘関係やLGBT多様性などの要素を織り込み、既存のそれ(新生児取り違え題材映画)とは一味違う作り。
これと平行して描かれるもう一つの題材。
1930年代に起きたスペイン内戦。ファシズムや戦争に反対の人民政府に対し、軍部が蜂起。多くの人々が犠牲になった。
この内戦の犠牲になったジャニスの曾祖父。その遺骨を探し、埋葬したい。
その縁で知り合ったのが相手の男性。人類学者。
相手の男性との出会いや妊娠~出産~取り違えも、全て遺骨探しから始まったと言って過言でもない。
そしてクライマックス、集団墓地から多くの遺骨が掘り起こされる。
各々にとって、亡き家族との再会、自身のルーツ、決して忘れてはならぬ自国の歴史と向き合う…。
主軸は新生児取り違えだが、アルモドヴァルが本当に描きたかったのはこちら=スペイン内戦ではなかろうか。開幕と閉幕もそれで、そこからも感じられる。
おそらく本作の評価が高いのもこれだろう。
作品に重層的な深みを与えているが、歴史を知らぬ者にとっては…。
玄人の方には両方を通じて深く語れるのだろう。
が、おバカ無知な自分には両方の関与性がピンと来なかった。
ペネロペ・クルスの名演は見るものあり。
美しさも演技も円熟増し。