「幾何学的人間ドラマ」パラレル・マザーズ かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
幾何学的人間ドラマ
たまたま同じ日に出産を迎えた2人のシングルマザー、ジャニス(ペネロペ・クルス)とアナ(ミレナ・スミット)。けっして交わるはずのなかった2本の平行線が、2人の赤ちゃんにおきたある悲劇によってクロスする時、スペイン内戦の犠牲となった先祖たちの霊が成仏する、といった幾何学的人間ドラマである。
「ジャニスは、劇中の大部分において2つの大きな意図を持って行動している。内なる葛藤と恐怖を胸に秘めているのさ。アナが彼女の新しい役割として適応する反面、罪悪感を増幅する存在にもなる」監督アルモドバルが語っているジャニスの恐怖と罪悪感については、映画を見れば自然と観客に伝わってくる単純明快なストーリー。が、アルモドバルが映画の最後にさらっと忍ばせた、スペイン内戦の悲劇とジャニスの葛藤とが心理的には直接結びつかないのである。
自らゲイであることをカミングアウトしているのにも関わらず、女性を讃歌する作品が非常に多いアルモドバル。部屋のインテリアや衣装、そして登場するガジェットの色使いも相も変わらずビビットであり、70歳を過ぎても依然創造力は衰えていないようだ。タイトルが示唆している平行線とクロス(十字架)の意味に気づけないと映画の真意にたどり着けないという意味では、人間の内面よりもむしろ外面=行動に重きをおいた作品といえるのかもしれない。
シングルマザーであるジャニスとアナの実父も、2人が小さい頃にすでに生き別れており、女手一つで育てられたという共通点を持っている。薬中の母ちゃんが20代で死んだジャニスと、女優業の妨げになるため実母に放置されて育ったアナ。通常ならば自分の母親と同等に赤ちゃんを扱ってしまうところだが、ジャニスとアナは(映画を見ておわかりのとおり)娘たちに無償の愛を注ぎ続けるのである。思っているだけではなくちゃんと“行動”にうって出たのだ。
もしも2人が、妊娠後途中で中絶したり、仕事優先で育児放棄したり、はたまた怠け者のベビーシッターに赤ちゃんをまかせっきりにしたりすれば、ジャニスとアナの人生は平行線のままでけっして交わることはなかっただろうし、先祖の遺骨も共同墓地に埋められたまま、永久に無縁仏となったことだろう。女の出産育児に対する執念とも言うべき強い思いをちゃんと行動で示したからこそ、2人の運命が引き寄せられようにクロスした。そうだそうにちがいない。