「スペイン巨匠監督が紡ぐ"現実に向き合う女たち"が死者と対話する映画」パラレル・マザーズ O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
スペイン巨匠監督が紡ぐ"現実に向き合う女たち"が死者と対話する映画
仕事で出会った一夜限りの関係の男性との子を身籠り年齢に鑑みてこれが母になる最後のチャンスと産み育てる決意をした女性と、クラスメイトの少年たちからの集団レイプによって身籠った子を悩んだ末に両親の反対も押し切って生かす決断をした少女、この二人のシングルマザーが見舞われる我が子の取り違えとそれに対する真実の希求の物語です。
こうした己の都合とモラルとの相克はドラマになり易く、おそらくは邦画や他の地域の洋画であれば、そのままジャニスが口を噤んでセシリアが大きくなってから真実が明るみに出る、あるいは真実に気付いたアナの口を封じようとジャニスが彼女を殺めてしまう…といった、いわば"秘する"ことによるドラマ作りの方向に流れるハズです。
しかしながら本作では主人公のみならず他の登場人物全てが、まるで真実を奉じることあるいは己に正直であることを至上命題にして生きているかのようです。
そこには「過去を忘れて(即ち、真実から目を背けて)未来には進めない」という監督の強烈なメッセージがあり、スペインがフランコ政権から民主化へ移行するなかで起こった反権威的な音楽・絵画・映像などの芸術活動に加わった70年代の過去からの自身の一貫したスタンスの顕れのようです。
主人公だけならまだしも登場人物みんなに己の信条を代弁させるのはフィクション作品としてはやりすぎな気もしましたが、だからこその力強い作品に仕上がっている、ということは言えるでしょう。
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