「幾重にも重なった要素が、まさに結実したラストが印象深い一作」パラレル・マザーズ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
幾重にも重なった要素が、まさに結実したラストが印象深い一作
予告編が示すように、本作は新生児の取り違えという非常に現実的な事件を題材として扱っていますが、それと並行して約80年前のスペイン内戦の悲劇という歴史が語られます。このように本作では、二人の母親、二人の新生児、過去と現代、絶望と希望といった、いくつもの相対する要素が折り重なり、よりあわさっています。
アルモドヴァル監督は映画監督として活躍すると同時に、ちょうど本作のアルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)のように、スペイン内戦で起きた悲劇に向き合う文化活動を展開してきました。本作では手軽にDNA検査キットが入手できて、非常に詳細に血縁関係に関する資料を手に入れることができますが、これはスペイン内戦で行方不明になった人々の身元を、発掘された遺骨から割り出していく活動が広く普及したためだそうです。
このようにアルモドヴァル監督は、現実の文化活動と自らの歴史に対する使命感、そして卓越した語り口を実に巧みに融合させています。監督作品らしい、さまざまな要素が随所にちりばめられており、特に赤と淡い緑、そして黄色が巧みに配置された絵作りは素晴らしく、「アルモドヴァル作品」であることを強く印象づけます。
しかし彼の熱心なファンでなければ作品のメッセージを読み取れない、ということは決してなく、中心となるドラマは非常に明確で、かつこれまでの監督作品としては一番円熟しているのではと思えるほどの演出力のため、誰が観ても強い印象を残す作品になっています。もっとも、ウキウキと楽しい気分になる映画ではないんですが。
全ての「パラレル」な要素が一気に繋がるラストは、スクリーンの境界を超えてこちらにやってくるような生々しさと迫力があり、非常に見事です。