劇場公開日 2022年11月3日

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「母と娘の血筋。民族の“血の記憶”。血を象徴する赤の強調が鮮烈」パラレル・マザーズ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0母と娘の血筋。民族の“血の記憶”。血を象徴する赤の強調が鮮烈

2022年11月13日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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ともに意図しない妊娠だがシングルマザーとして出産することを決意した写真家のジャニス(ペネロペ・クルス)と17歳のアナ(ミレナ・スミット)。2人は産院で出会い、同じ日に女の子を出産する。

パラレル(スペイン語ではparalelas)は「並行の、同時進行の、相似の」といった意味。出産時のシーンでは、2人がそれぞれ分娩台で産科医らに囲まれ痛みに耐えながら無事に産んで赤子を抱くところまで、ショットが交互に切り替わりながら同時進行で提示される。同じ産院で同時刻に生まれた同性の赤ちゃん2人、という状況でたいていの観客が予想する展開が、まさにその後のストーリーの肝になる。とはいえ、脚本も兼ねた名匠ペドロ・アルモドバル監督は、サスペンスの味付けも添えつつ、母2人の葛藤、連帯、愛憎、喪失といった複雑な感情と関係性を魅力たっぷりに描いていく。

さらに、アルモドバル監督が長年温めてきたテーマだとする、1930年代後半のスペイン内戦時の“共同墓地”をめぐるサイドストーリーが絡んでいく。主義主張の違いだけで罪なき市民が大勢処刑され、まとめて埋められたが、近年その孫やひ孫が墓を開いて遺骨の身元調査などを行うよう働きかける運動を続けているという。こちらは市民同士が憎み合い血を流した痛ましい記憶であり、また血を受け継いだ子孫らが先祖に敬意を表する行いでもある。母と子をつなぐ血、かつて流された血が、衣装やインテリアなどで多用された鮮烈な赤によって強調されている。

高森 郁哉