「人生いろいろ、お母さんもいろいろ」パラレル・マザーズ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
人生いろいろ、お母さんもいろいろ
印象的な2つの題材から成る映画。ひとつはもちろん主人公ジャニスとアナとその子供をめぐる話、そしてもうひとつは1930年代のスペイン内戦犠牲者の遺骨発掘の話だ。スペイン内戦と子供の取り違えの話とを組み合わせた狙いが少し見えづらい気もしたが、内戦当時から現代、祖母からジャニスに至る3代の女性たちの生き方にまで触れるにあたっては、避けて通れない背景ということなのかも知れない。
スペイン内戦というとピカソのゲルニカを連想する。内戦の状況を具体的には知らなかった私だが、今回少し調べてみてイメージを伝える絵の力を改めて感じたりした。
産院などで子供が取り違えられる話は、ドキュメンタリーやフィクションでいくつかあるが、大抵は当事者の親と、実は血の繋がりのなかった子供の間の葛藤や愛情に焦点が当てられる。本作では、どちらかというとジャニスと周囲の大人たちとの関係が流転する様が中心に描かれる。
その変容の仕方が、日本人の私の感覚からするとかなり寛容というか斬新な部分が多く、へえそうなるんだ、という感じで見ていた。
ジャニスはアルトゥロに実子かどうかを疑われて検査をし、その後密かに取り違えを疑っていたアナの娘が病死したことを知りしばらくは真実を言えなかった。実の子(と思われる)は亡くなり、その上手元の娘までいなくなるという二重の辛さには耐えられそうになかったのだろう。
ここまでは心情が分かりやすかったが、真実を伝えてすぐ(その場で!)アナが子供を連れ帰ってしまうところや(法律上はジャニスの子なのに)、そのアナといつの間にかさっくり和解して一緒に発掘現場に行ったりするところは、何というかジャニス大人だなあ……と思ったりした。産院に直訴するような場面もない。まあ、その辺は本作のテーマを語る上でポイントではないから割愛したということなのだろう。
かつて不倫の末に出来た子を堕ろせと言ってきたアルトゥロとよりを戻してまた子供を作るのも、なかなか腹が据わっている。個人的にはずいぶん勝手な男だという印象を抱いてしまったので……
一方、ジャニスとアナが肉体関係を持つことが当然あり得る一場面としてさらっと描かれていたことに、とてもフェアな印象を受けた。
全ての母親たちの強さも弱さもそのまま受容する、静かな母親讃歌のような作品。いつまでも美しいペネロペ・クルス、ちょっと水原希子風で中性的な美しさのあるミレナ・スミットの2人がとてもスクリーン映えしていてよかった。