ある男のレビュー・感想・評価
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これはテーマ、演出、脚本、キャスト全て良い傑作かもしれない。ずっと...
これはテーマ、演出、脚本、キャスト全て良い傑作かもしれない。ずっと追いかけさせらる感じ、そして誰?の先にあるアイデンティティへの問い、ラストシーンの余白、石川監督素晴らしい。もう一回見なきゃかもと思わせてくれる良作でした。
生まれた瞬間始まる呪い
窪田正孝さん演じる大祐は有名旅館の息子でありながら田舎に引っ越し林業に就き、家庭を築くところから話は展開していくが、序盤で役所の職員が放った言葉がこの映画の核心だと思う。
私もごく普通の戸籍と家族を持ち育ってきたわけだが、この映画を鑑賞しながら、私の在日の友人が在日であることに悩んでいたことをふと思い出した。以前に、その友人は誰か有名人の人生をくれれば私は絶対にうまく生きられると言っていたのだが、それは自分の境遇を脱ぎ捨て生きたいという意味だったのかな、と思う。私にはその苦しみはなんとなくピンとこないが、この映画にあることは無いことはない話だと思った。
生きることを困難にする境遇は、生まれた瞬間から永遠にまとわりつく呪いなんだろう。
予告編の印象と違う…?
過去を変える、とは。
脇役がいい
背を向けて何処へ
原作は読んでいません。
◉静かな場所へ逃げる男たち
戸籍交換の仲介人(柄本明)に頼んで名前を差し替えることで、人生も変えようとする男たち。しかし、人生をやり直すと言うよりは、むしろ人生を消して、世界の片隅で生きていこうとする。犯罪者でもないのにだ。
原誠(窪田正孝)は残虐殺人犯の父を持った息子の悲哀に押し潰され、谷口大祐(仲野太賀)は旅館のうだつの上がらない次男坊の鬱屈を抱えて、それぞれに逃げ出して静かな場所を目指した。
そうした男を演じた窪田正孝は良かったと思います。ボクサー役が上手かったかどうかは別にして、トレーニング中も試合中も、闘いとは離れた静謐感を漂わせていた。つまり寂しい男を表象していた。
◉薄らいでいく曇天
それでも谷口大祐は恋人とのわだかまりを解き、原誠は最後は不慮の事故で命を落としたとは言え、わずかな歳月、幸せな家庭に恵まれた。
弁護士の調査が進捗して、二人の男の辿った道筋が明らかになっていく。谷口はおびき出されるかっこうで恋人と再会できて、心の灰色の空も晴れただろう。仲野太賀の優しく頼りない感じが良かった。
原の曇り空も、里枝(安藤サクラ)と子どもとの暮らしの中で、ほとんど消えてしまったはずだ。微妙ではあるけれど、ハッピーエンド。
親にしてもらいたかったことを、自分にしてくれたと呟いた息子が生意気ながら、いじらしい。
◉在日コリアン弁護士の憂鬱
すると、この作品の背景に曇天のように垂れ込めていた(と強く感じた)憂鬱は、誰のものだったのかと言う問いかけの答えは……。やはり、弁護士城戸(妻夫木聡)のものですね。
戸籍交換の仲介人に在日コリアンの生い立ちを見抜かれ(ここはかなり唐突過ぎて不自然だけど、強引に納得させる柄本明の圧はさすが)、妻の親との口にできない断層を感じ、妻との思いや考えのズレに悩む。遂には妻の不倫の兆しすら現れる。
社会的には陽の当たる場所に居て、弁護士としての実績も優れているのに、城戸は不安に苛まれる。俺の落ち着ける居場所は何処にもないじゃないか?
そこにありそうなのに手に入らないものに対する叫び声を、必死で呑み込もうと堪える妻夫木の端正な顔。
ただ、在日の外国籍の人たちの拠り所の無さや怨み辛みは、もっと執拗に描かれても良かった。そのため、この作品の基本色であったはずの灰色の重苦しさが、もう一つ胸を押してこなかった感じです。
もう一度、窪田正孝。画材を幾度も買いに訪れて、安藤サクラにぼそっと、友達になってくれますか?
今更、中学生か! と突っ込みながら、優しさが故に脆弱であることも、時には悪くないのかも知れないなどと、頷いておりました。
背負うもの
豪華なキャストの作品という事で期待値を上げての鑑賞 👀
窪田正孝さんの熱演、眞島秀和さん、妻夫木聡さん、安藤サクラさんの安定の演技、真木よう子さんの艶やかな美しさ…見応えが有りました。
文具店を営む実家に戻り、自身の母親と同居する結婚経験のある子供を持つ女性が、再婚相手の家族と一度も会わずに籍を入れた事に違和感を覚えました。
ラストは、バーの中だけのなりすまし、と理解したのですが、どうなのでしょう。
映画館での鑑賞
人が生きていく中での迷宮
冒頭、そしてエンディングに映される、シュールレアリスムの画家:ルネ・マグリットの絵「王様の美術館」が本作を見事に象徴しています。
人は日常の中で知らず知らずのうちに、一定の固定観念に縛られて物事を見聞きしてしまっていて、ほんの少し視点をずらすと、実は全く異なる世界が広がっている、その危ういほどの微妙なバランスの上を綱渡りのように歩んでいるのが人生である、ということを感じさせる作品です。
本作は、芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラー小説の映画化ですが、原作にはマグリットの絵は引用されておらず、このカットを入れる、而もファーストシーンとラストシーンに挿入することで、本作に世の中の不条理感と不可思議で無気味な空気感を漂わせることに成功しています。特にラストは奇怪さがより増幅され、背筋が凍る思いで慄然とさせられ、観終えた後、あまり愉快な思いはしませんでした。
前半は、安藤サクラ扮する武本里枝の視点でホームドラマ風に緩く進み、窪田正孝扮する谷口の事故死から、物語は一気にサスペンス調に切り替わります。ただサスペンスドラマのような体裁を取りながら、冒頭に述べましたように、本作は謎を解くことが主たるテーマではありません。それは窪田正孝の目に終始生気がなく、まるで生きている人でない、一種の亡霊のような感覚がするのが、後々への伏線になっていることにつながります。
そして、物語の転機では常に雨が降っているのも象徴的です。またアクションも美しい自然描写も一切ない、人と人との会話により進行する本作のようなストーリー展開では、つい人物の顔の極端な寄せアップを交互に映し、やたらと無意味に緊張感を強調するようなカット割りにしがちなのが、本作では寄せアップは殆どなく、やや引いた落ち着いたカットでつながれます。観客は寛いで観賞できながら、それゆえにいつの間にかスパイラルに社会の不条理性・不可解性の泥濘に取り込まれていきます。
ただむやみに手持ちカメラを多用しますが、これはあまり意味がありません。画面を揺らして不安感と緊張感を高めようとしているのでしょうが、本作に限っては不要です。私は手持ちカメラのカットのたびに平常心に戻り、却って興醒めしていました。
独特の怪しい空気感が漂う、不思議な趣の本作ですが、率直に言って社会問題を余りにも多く揃え広げて見せ過ぎており、その結果焦点がぼけてしまっています。人種差別・夫婦間の不信・親による差別/虐待・仮面夫婦・戸籍交換・・・、深刻で重篤な問題ばかりで、小説なら読みこなせても、2時間の映像にまとめねばならない映画では明らかに盛り込み過ぎており、脚色に大いに難ありと思います。
さて、タイトルにある「ある男」とは一体誰のことか、脚本通りに捉えれば、その正体を追い求めた、自称・谷口大祐のことなのでしょうが、実は主人公である、妻夫木聡扮する城戸章良のことのようにも、或いは柄本明扮する謎の囚人・小見浦憲男にも思えます。
そう、きっと世の人々は遍く仮面を被った日常と他人には見せない裏の顔を持った、“ある男”なのではないでしょうか。
カテゴリー分けと先入観から開放されたい
自分ではない誰か他人の人生を生きたいと思ったことのある人は意外といるんじゃないか。でも、それはただの夢みたいな妄想だ。現実的に元の自分とは違う人間になるために戸籍を買ったり、別の名前で生活するってことは相当な気遣いが必要。犯罪にかかわっていたり、多額の借金から逃れるくらいの理由がないとそんなことはなかなかできない。
亡くなった愛する夫は別人で、なぜ彼は自分とは違う人間になりすましていたのか。その夫の過去を探る話と思っていたが、予告編のミスリードであった。実際の主人公は妻夫木演じる弁護士。いや、もちろんあの夫婦もメインの話ではある。でも帰化した在日韓国人の弁護士が(無意識にではあるが)自分の出自とからめて、ある男(X)の調査にのめり込んでいく話だと感じた。でもだからこそ面白かった。
ある男(X)が何者でなぜ他人になりすましていたかの真相はあまり重要ではなく(とても重く感動的ではあったが)、その人がその人であるための要素ってなんだろうということを問いかけてくるメッセージの方がより強かった気がする。人は、人をカテゴリー分けし、過去や血縁関係等といった先入観で判断しがち。昔から様々な作品で問いかけられているメッセージではある。でも未だに重い。とても深みのある物語だ。
でも、最後のシーンはどうなんだろう。彼が抱える闇の深さはその直前の家族での外食シーンからもうかがえるのだが、あのバーでのやりとりはそこまで必要なシーンだったんだろうか。妻や子どもとの関係もどうなったのかもこちらの判断にゆだねるということなのかもしれないが、若干消化不良になってしまった。
秀逸でした。
内容的に難しかったので感想
生い立ちが人生を不幸にさせるのはやるせない。差別がない世界になって欲しい。
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