「未だ余韻の中」ある男 Rさんの映画レビュー(感想・評価)
未だ余韻の中
「どんな境遇でもいいから、今の自分を捨てて新しい自分になりたい。
そうでもしないと生きられない人がいるんです。」
城戸の言葉に胸を打たれた。
人の人生を追いかけていると気が紛れると言った城戸も、原誠や谷口と同じく自分のルーツや人生をどこか受け入れきれずに過ごしてきたのだろう。里枝の言葉「本当のことを知る必要はなかったのかもしれない。一緒にすごした時間ははっきりとした事実」という言葉でやっと、自分のこと、自分の選んだ妻、築いた家庭を受け入れ、向き合っていこうと思えたのではないだろうか。谷口大祐の調査を経て、彼もまた救われたのかもしれない。
そう思った矢先に、奥さまの浮気発覚。最後バーで谷口大祐の人生を語ったのは逃避だろうか。「人の人生を追いかけていると気が紛れる」という言葉の通りになってしまった。
最後にマグリットの絵「複製禁止」を映したのは、彼が自分自身を直視出来ない、受け入れられないということを表しているのだろうか。谷口や原誠がそうであったように。
妻夫木聡の、感情を押し殺した絶妙な表情の変化が素晴らしかった。激しく怒ったり泣いたりしなくても、こんなに心の内を表現出来るものなのかと。
安藤サクラの自然な演技も大好きだし、窪田正孝も可愛くて応援したくなってしまった。
亡くなった子供を思って名前を呼んでくれるシーンはぐっと来た。
柄本明怖すぎ。
最近は洋画ばかり観ていたけれど、邦画の力、役者の力を見たような気持ち。
自分の人生を捨てて、人の人生を生き直したい、そう思うほどの境遇に自分は居ないはずなのに、すごく共感できて、感情移入してしまった。
谷口大祐として生きた数年間は、原誠にとってどれだけ幸せな時間であっただろうか。
相手の名前やルーツではなく、今自分が見ている相手、一緒に過ごしてきた時間が大事だと改めて思うことが出来た。
見終わったあともしばらく余韻が残るような、素晴らしい映画だった。