劇場公開日 2022年11月18日

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「☆☆☆☆(秀逸なラストに★1つ追加で) 原作読了済み。 [序]で始...」ある男 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0☆☆☆☆(秀逸なラストに★1つ追加で) 原作読了済み。 [序]で始...

2024年3月15日
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☆☆☆☆(秀逸なラストに★1つ追加で)

原作読了済み。

[序]で始まる原作。その部分を〝 そこ 〟に持って来るか〜と…つい。

映像化はこの[序]ではなく《里枝と大祐》の出会いから始まる。
この話の主人公は弁護士の城戸で。原作の大半は、不慮の事故で亡くなった〝 謎の男 〟の正体を彼が探る話。
従って、未亡人となってしまう里枝と。亡くなった大祐を実際の父親ではなかったのだが、懐いていた息子の悠人の苦しみを中心とした話は中盤と最後に少しだけある。

主人公の城戸は在日帰化した弁護士。
その為に原作自体は、在日差別等の問題点も描かれている。
その辺りの描写は映像化にも描かれてはいた。
だがしかし、関東大震災時に起きた《朝鮮人残虐事件問題》は、何かと【右翼】だ【パヨク】だ…と、ここ数年間で矢鱈に《陰謀論》と《愛国心》の言葉を持ち出しては、雪崩現象を起こしつつある〝 右翼化への流れ 〟へと、社会変化して行く事への憤りを、原作者自身のペンを持っての怒りが込められていた。

それゆえに、製作者側は日和ってしまったのか?完成された映画本編では、それらの問題点をそこまでは踏み込めなかった様に思える。
この辺りの描写は。原作者自身が、最近のSNSでの発言を知れば、「どうしても描いて起きたい!」問題なのだろうけれども。

しかしそれにより、ストーリー自体は。在日差別問題を少しばかり排除した事で、1人の男の人生を探る話としてシンプルにまとまっていた様にも思う。
大祐を探す城戸は《なりすまし》の人生を選んだ【謎の男】同様に。自分自身も《在日》である事実を、心の何処かで隠し持ち〝 ある種のなりすまし〟 なのだろうか?…と言った、疑念を持ち続けている人物だったのかも知れない。
だからこそ、収監中の柄本明には一瞬で心を見透かされてしまい「イケメンのマヌケな在日弁護士!」と貶されてしまう。

そしてもう1つ、城戸には決定的な欠点があった。
それが、原作だと冷え切った状態にある妻との夫婦関係。
もとより堅物で真面目な性格。
映画だと、小藪演じる同僚の中北から(確か原作にはなかったと思う)言葉は違うのだけれど「もうちょっと上手くやり〜な!」的な対応を常にされている。
だかしかし、自分の経歴にはどうしても泥を塗りたくはない為。どうしようもない夫婦関係ではあっても、絶対に離婚だけはしたくない。
多少はイケメンであるのは自覚しているのか?(多少の》浮気願望は持っているのか?里枝の指輪であり、美涼の〝 ある一部分 〟についつい眼が行ってしまう。
その辺りも柄本明には一瞬で見抜かれてしまったのであろう(原作だとヌード写真)

※ 1 更に言うと、美涼が作った大祐の《なりすましアカウント》
映像化ではカットされていたが。原作だとこのアカウントには兄の恭一がアクセスして来て、美涼に対するストーカーとなる。
嫌がる美涼は城戸に相談する。それによって美涼に会う口実が出来る事から、少しばかりのウキウキ感を持つ城戸の心に宿る《なりすまし感覚》

全ての謎は解け〝 謎の男 〟の正体は明かされる。
悠太は父親の過去を知り、未来に向かって歩き出す。
そして城戸も、過去を変えた〝 謎の男 〟の資質に感化されたのか?(原作だと)夫婦関係の改善を図る。

だが、、、最後の最後に!

城戸は元々、気の強い妻との口論はしたくない【ことなかれ主義】の男。
原作でも1つめのエピローグ的な妻に送られて来た〝 意味深なLINE 〟
この描写は。原作の中盤に、妻との関係に疲れ。ふと一時、未亡人となった里枝との隠微な関係性を想像する場面が存在し。この後、里枝の大祐への愛情溢れる想いを知るにつれ、ほんの一度だけBARで大祐に《なりすまし》てみるエピソードがあるのですが。

そんなLINEのエピソードを、映画本編では最後のエピソードに至る直前のキッカケとして配置する事で。元々、同僚の中北からも推奨されていた〝 上手くやる 〟術を持ち得る〝 狡賢さを発揮する男 〟へと変貌する。
それが後々での、原作での【序】にあたる部分へと帰結するのですが。そんな城戸の姿を眺める大祐の姿がそこに居た。

果たして、「この人に見つけて貰えて良かった!」…と思っているのか?

それとも、、、

「こんな男に里枝を取られなくて良かった!」

…と思っていたのか?

様々な考え方が出来る、実に秀逸な締めくくりだったと思っています。

2022年 12月18日 TOHOシネマズ錦糸町オリナス/スクリーン6

※ 1 映画化では30前か?と言える美涼の年齢だが、(おそらくは)原作だと40歳前後か?だから年齢的に近い城戸は、美涼と会う機会にウキウキ感を持っているのだと思う。
その年齢ゆえ、自分の性癖すら城戸に露わに話す美涼に対し。それに顔には出さずとも嬉々として接してしまう自分の姿には、自分で自分がわからなくなり、ついつい戸惑いを隠せない。

映像化では美涼は元◯人と会う事が出来る。
原作だと、始めにこの人物と城戸が会い、その後に入れ替わって美涼が会う。
(原作では)その2人が会う瞬間を城戸は見てはいないので。映画本編での城戸は、(その年齢的な違いの設定ゆえに)美涼と元◯人に対しては、父親的な感覚に有る為、この後に見せる城戸の〝 いやらしさ・狡猾さ 〟は際立つとも言えるし。反面では、唐突感にも繋がっているとも言え、この面でもちょっと悩ましい。

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松井の天井直撃ホームラン