「あなたの過去など知りたくないの~♪」ある男 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたの過去など知りたくないの~♪
愛した夫は別人でしたというから、謎めいたミステリーものだと思ったら、事故が起きるのは20分後、ようやく真相に迫る戸籍売買人の下りが50分後と超スローテンポ。
主人公の弁護士は在日3世、謎の男は死刑囚の息子、いわれのない蔑視や差別に悩むのは共通項で世間の差別意識に物言う社会派ドラマ的でもある。
原作の平野啓一郎は分人主義者(自分の中の複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉える考え方)だそうだが監督の石川慶も東北大学で物理を学んだ後、映画監督を志しポーランドのウッチ映画大学に留学し演出を学んだ変わり者、自分探しのためにあえて海外に学ぶ道を選んだようだが二人には、「自分とは何か」という共通する哲学的テーマがあったのでしょう。
ただ、キャスティングや演出は自分好みでは無いので観ていて違和感が否めなかった。
柄本明、安藤サクラ、小籔千豊、きたろう、でんでんと癖の強い人を好むようだが本人の存在感が強すぎて役ではなく本人にしか思えない、これもテーマに沿った監督の意図なのでしょうかね。
最近も昭和の連続企業爆破事件の犯人が偽名で50年も潜伏していたというニュースを観たばかりだからか、犯罪者かと想像したが「砂の器」のような悲劇、もっともこちらは単なる現実逃避。
ミステリーにしては雑味が多すぎるし、稚拙な心象描写っぽいシーンが多すぎ、特に自身も別人に変わろうとする弁護士のラストシーンは蛇足でしょう。
生命保険の件があるから本人探しを弁護士に依頼したんでしょうね、愛していたなら戸籍などどうでもいいし、生前の夫の苦悩を知っても今更どうなるもんでもありません、安藤サクラの心のうちは、あなたの過去など知りたくないの~♪の唄でしょう。