「背を向けて何処へ」ある男 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
背を向けて何処へ
原作は読んでいません。
◉静かな場所へ逃げる男たち
戸籍交換の仲介人(柄本明)に頼んで名前を差し替えることで、人生も変えようとする男たち。しかし、人生をやり直すと言うよりは、むしろ人生を消して、世界の片隅で生きていこうとする。犯罪者でもないのにだ。
原誠(窪田正孝)は残虐殺人犯の父を持った息子の悲哀に押し潰され、谷口大祐(仲野太賀)は旅館のうだつの上がらない次男坊の鬱屈を抱えて、それぞれに逃げ出して静かな場所を目指した。
そうした男を演じた窪田正孝は良かったと思います。ボクサー役が上手かったかどうかは別にして、トレーニング中も試合中も、闘いとは離れた静謐感を漂わせていた。つまり寂しい男を表象していた。
◉薄らいでいく曇天
それでも谷口大祐は恋人とのわだかまりを解き、原誠は最後は不慮の事故で命を落としたとは言え、わずかな歳月、幸せな家庭に恵まれた。
弁護士の調査が進捗して、二人の男の辿った道筋が明らかになっていく。谷口はおびき出されるかっこうで恋人と再会できて、心の灰色の空も晴れただろう。仲野太賀の優しく頼りない感じが良かった。
原の曇り空も、里枝(安藤サクラ)と子どもとの暮らしの中で、ほとんど消えてしまったはずだ。微妙ではあるけれど、ハッピーエンド。
親にしてもらいたかったことを、自分にしてくれたと呟いた息子が生意気ながら、いじらしい。
◉在日コリアン弁護士の憂鬱
すると、この作品の背景に曇天のように垂れ込めていた(と強く感じた)憂鬱は、誰のものだったのかと言う問いかけの答えは……。やはり、弁護士城戸(妻夫木聡)のものですね。
戸籍交換の仲介人に在日コリアンの生い立ちを見抜かれ(ここはかなり唐突過ぎて不自然だけど、強引に納得させる柄本明の圧はさすが)、妻の親との口にできない断層を感じ、妻との思いや考えのズレに悩む。遂には妻の不倫の兆しすら現れる。
社会的には陽の当たる場所に居て、弁護士としての実績も優れているのに、城戸は不安に苛まれる。俺の落ち着ける居場所は何処にもないじゃないか?
そこにありそうなのに手に入らないものに対する叫び声を、必死で呑み込もうと堪える妻夫木の端正な顔。
ただ、在日の外国籍の人たちの拠り所の無さや怨み辛みは、もっと執拗に描かれても良かった。そのため、この作品の基本色であったはずの灰色の重苦しさが、もう一つ胸を押してこなかった感じです。
もう一度、窪田正孝。画材を幾度も買いに訪れて、安藤サクラにぼそっと、友達になってくれますか?
今更、中学生か! と突っ込みながら、優しさが故に脆弱であることも、時には悪くないのかも知れないなどと、頷いておりました。
Uさん
コメントありがとうございます。
私は狭い世界に生きていますが、会社や社会で働いてる人は、
会社で見せる顔と家で見せる顔は違う・・・そう仰る方もいました。
私個人は気が弱いので、初対面で相手に圧倒されて話せなかったり、
相手次第で自分が変わってしまうのは、自分をしっかりもっていないから・・
かも知れません。
だからと言うか、ラストシーンは意外でしたね。
平野啓一郎さんも石川慶監督との対談で、ラストシーンにはじめ違和感を感じた。しかしそこから派生してイメージが広がり他のシーンへの興味へと繋がり、良いラストだと思う・・と話されていました。
Uさんの書かれている城戸の抱えている曇天のような暗さ(ニュアンスが違ったらごめんなさい)
妻が浮気しているのを知りながら許す・・・原作では妻を素知らぬ顔で許して
子供のために家庭を守る・・・でした。
たしかに城戸は鬱屈して暗いですね。
辛さを抱えて生きる・・・多くの人がそうやって生きているとも言えますし、
悩みながら生きる人が自然かも知れませんね。