劇場公開日 2022年11月18日

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「カテゴリー分けと先入観から開放されたい」ある男 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カテゴリー分けと先入観から開放されたい

2022年12月12日
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鑑賞方法:映画館

自分ではない誰か他人の人生を生きたいと思ったことのある人は意外といるんじゃないか。でも、それはただの夢みたいな妄想だ。現実的に元の自分とは違う人間になるために戸籍を買ったり、別の名前で生活するってことは相当な気遣いが必要。犯罪にかかわっていたり、多額の借金から逃れるくらいの理由がないとそんなことはなかなかできない。
亡くなった愛する夫は別人で、なぜ彼は自分とは違う人間になりすましていたのか。その夫の過去を探る話と思っていたが、予告編のミスリードであった。実際の主人公は妻夫木演じる弁護士。いや、もちろんあの夫婦もメインの話ではある。でも帰化した在日韓国人の弁護士が(無意識にではあるが)自分の出自とからめて、ある男(X)の調査にのめり込んでいく話だと感じた。でもだからこそ面白かった。
ある男(X)が何者でなぜ他人になりすましていたかの真相はあまり重要ではなく(とても重く感動的ではあったが)、その人がその人であるための要素ってなんだろうということを問いかけてくるメッセージの方がより強かった気がする。人は、人をカテゴリー分けし、過去や血縁関係等といった先入観で判断しがち。昔から様々な作品で問いかけられているメッセージではある。でも未だに重い。とても深みのある物語だ。
でも、最後のシーンはどうなんだろう。彼が抱える闇の深さはその直前の家族での外食シーンからもうかがえるのだが、あのバーでのやりとりはそこまで必要なシーンだったんだろうか。妻や子どもとの関係もどうなったのかもこちらの判断にゆだねるということなのかもしれないが、若干消化不良になってしまった。

kenshuchu