「ラストのよるラストのための映画」ある男 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストのよるラストのための映画
先日公開された「母性」で感じたかった胸のゾワゾワが本作にはありました。ものすごい感触...。公開から3週間経ってようやく鑑賞できたわけですが、こりゃ見物。韓国ノワールのような作品です。いや、凄かった。
妻夫木聡、窪田正孝、そして柄本明の怪演。
本作一番の見どころは、間違いなくそこです。
柄本明の登場から物語の雰囲気はガラッと変わり、それと同時に妻夫木聡演じる城戸の様子が変貌。「死刑にいたる病」で味わった狂気に似たものが感じられました。柄本明のおぞましさは流石で、やはり日本映画には彼が必要。そして、妻夫木聡の正気を失ったその姿は「来る」以上で、見ている側も頭がおかしくなりそうになるほど、緊張感溢れる演技を披露。窪田正孝の泣き演技にはとてつもなく胸を締め付けられ、やはりこのような役柄が似合うなと感心。他の役者も良いですが、特にこの3人の演技には圧倒されっぱなしで、高評価に繋がったかと思います。
前半は物語として致し方ないとは言っても、なんだか色々と弱く、飽きはしないけど物足りないってのが正直な感想。妻・里枝の夫に対する思い、夫・大祐の妻に対する思いが全然描かれておらず、この人でなきゃダメだったんだ、こうしてまで君と一緒にいたかったんだ、というのが無い。そのため、サスペンスとしては非常に出来がいいものの、恋愛・家族愛としての質は低く、感情移入が出来ない。もっと長くしてよかったから、そこはきちんと書いて欲しかったな。
しかしながら、後半に差し掛かってからエンジンがかかり、急速に面白くなる。在日、戸籍、死刑問題、それに対する反対運動や反対言動など、色んな要素を盛り込んでいるせいで裏テーマとしては何が言いたかったの?とはなるけど、表面的に見れば単純にめちゃくちゃ面白い人間ドラマだし、伏線回収も上手い。話自体は分かりやすいから支障は無いっちゃ無いんだけど、もっとシンプルでサスペンス一筋!だったらより良かったかも。だけど、ストーリー展開は素晴らしく、今年の日本サスペンス映画ではベスト級に面白いです。
この映画の上手いなぁと思うのは予告。
あの予告じゃ、本当に何も分からない。この結末が予想できるはずがない。特に特報なんて、妻夫木聡がなんの人なのかすら分からないし、すごくよく出来ている。おかげでラストの鳥肌は半端じゃなかった。一つの絵が、一つの映画を見て、全く違うものに見える。お見事な着地点でこりゃ面白い!!!となること間違いなしです。ラストを先に考えて、そこから話を膨らませていったんじゃないかと思うほどに、秀逸な締め方でした。
もっと面白い作品にできた気もするけれど、個人的には大満足。「初恋」ぶりに窪田正孝ボクサーが見れたのも最高に嬉しかった。今年、「さがす」に次ぐ衝撃ラストの日本サスペンス。この機会にぜひ、劇場で。