「絵は語る」ある男 humさんの映画レビュー(感想・評価)
絵は語る
⚫︎注意⚫︎すごくネタバレですので鑑賞後の方向けです。
………
里枝は子供の死、離婚を経て故郷に戻った。
心の傷はまだ生々しく店番中にもはらりと頬をつたう涙。
気丈にしている隙間からこぼれてしまう苦しみに、たまたま客として訪れた彼は気づいたのだろう。
同じにおいが引き寄せるものを感じさせたのかもしれない。度々立ち寄るようになり友達になってくれませんかと名刺を渡す。
彼の名は「谷口大祐」
停電に遭いブレーカーの様子をみてくれた大祐と距離が近づいたとき、里枝はほのかな気持ちが走るのを自覚した。
そして、その様子を感じた大祐。
彼はすでに里枝に惹かれはじめていた。友達以上に…
付き合いはじめ、飲食店で自分のことを語る里枝。やり場のない思いを吐露するほどに震えてしまうその手をあたたかく包み込む大祐。
車の中で気持ちのままに寄り添うが、窓に映る自分をみて大祐は、自分に似た父を思い出す。根深いトラウマが彼を襲う。その理由を問うことなくおびえる背中を抱きしめる里枝。
二人の空気感は湿り気を帯びた静かな思いやりに満ちていた。「僕がいるから」「私がいるから」と互いの過去をそっとみえない場所にしまってやるように。
二人は新しい家庭を築いた。里枝の長男・悠人も大祐を慕い、娘も生まれた。
穏やかな表情で大祐の出勤を見送る里枝。やさしい笑みを返し出かける大祐。二人は、そして家族は間違いなく安らぎのある幸せを手にしてた。
里枝は目の前の大祐をそのまま愛した。
大祐もそんな里枝を愛した。
思春期に入った悠人も大祐を慕い義理の父との家族愛の中にいた。
そして訪れた大祐の不慮の死。
この死により、大祐がある男〝X〟となり、未来が途切れた男の過去にむかって歩み出す。
里枝は夫の事実を知ろうと、以前世話になった弁護士の城戸に依頼する。調査の過程で城戸は服役中の囚人詐欺師、小見浦と面会する。
(ここで柄本さんの壮絶憑依が炸裂(O_O))
その凄みは圧倒的だった。
社会の裏のさらに奥の暗がりから、知り尽くした俗世をほくそ笑んでいたぶる語り。全てを握りしめたように相手を転がし弄ぶ意味深な目つき。
冷静で穏やかな城戸が完全にペースを盗まれ、落ち着きをなくし、脈を乱されてしまう。
なぜか?
そう…
ある男Xがなぜ大祐として生きていたか という話なのだと思って観ていたら甘かった。
中盤から怒涛の展開がくる。
しかし、あからさまな嵐ではない。
呻めきながらじわじわと手が伸びしのび込んでくるような地下の奥深くに疼く黒い雲のようだ。
小見浦がその暗がりで振り返りながらひっひっひと肩を揺らし、鼻で笑うのが聞こえそうだ。あんたにも覚えがあるやろと。
城戸はある男X をつくりあげた過去の消えない生い立ちと現実社会を夢中で調べながら、オーバーラップする自分の内なる声に気がつく。夢中だったのは共感に近かったからだろう。まるで自分自身の内面に切り込みをいれて剥がしていく作業にみえた。
後から気づく、いくつかの印象的なシーンがある。
城戸が里枝の車で迎えに来てもらい、ハンドルを握る里枝の指に結婚指輪がうつる。
完全に城戸の目線だ。
里枝と大祐に関わりながら
なにか羨ましさのような感覚がみえる。
外食先、妻の不倫を密かに見つけ、知らぬふりをする城戸。既に妻との愛情にすでになんらかの不安定さを肌で感じていたのではないか。妻もだ。
その状況で携帯を置きっぱなしにするのは、確信犯だ。問いただしたりせずに気持ちを置き去りにする夫の姿を確認するだけ。妻がいちかばちかのようにわかりやすく振り向かせたかった為の行動だったのかもと思う。(きっと、咎めて欲しがったんだろうね。)
世間的には、弁護士として不自由なく暮らし妻と子にも恵まれている城戸。
しかし、その肩書きの世界の虚しさと本当の愛情の在り方に自信をもてずに戸惑っていたのだろう。彼のストレスの根底には、脈々と受けてきた国籍の壁の厚みや高さが関係している。
妻の親との何気ない会話に潜むいやらしさや、愚かなヘイトスピーチ、やまない偏った情報、見透かすような小三浦との会話などで溜まり続けていく。
セリフの中で、とうに帰化していることも告白しているが、
「切っても切れないものが世にはある。」ことをさらに強調したのだろう。
また、息子と仲良く遊ぶ優しい父でいたかと思えば、ヒートアップした幼い子の失敗に怒鳴る。妻は息子を擁護しながら、家庭に仕事を持ち込みすぎていると怪訝を示す。
疲労にストレスが重なる状況になれば、理性を失い着火したかのように一転してしまう、人間の弱さ、表裏一体性も顕になった。
あの人が。。。という事件がたまにあるが、きっかけは意外にそこら辺に転がっているかもということがわかる。
(ストレスの影響といえば、大祐が里枝といる車中以外にも、ランニング中に倒れるシーン、茜といる部屋で鏡に映る自分をみて苦しむシーンでコントロールできないくらい体を支配してしまうことを表していた。大祐の場合は殺人を犯した実父とのつながりで、本人の罪ではないのに切り離せずつきまとう悲しい現実だということも。)
そして
大祐の過去を全てを知ったとき。
大祐への愛は愛のままだった里枝。
泣く悠人に正直に話し息子の気持ちを抱きしめてやる里枝。
(そうそう、姿を消していた本物の大祐のことも再会した美涼は許したね。)
僕たちは誰かを好きになるとき
そのひとの
何をみているのだろう
そのひとの
何を愛するのだろう
…あの人と幸せに過ごした事実は事実
本質に向き合った里枝のその気持ちにじんときた。
わずかな歳月、そんな里枝と過ごせた大祐の感情を愛おしくかんじた。
そして、里枝と新しい家族の愛を胸に大祐が安らかに眠ってくれてることを信じたい。
とある美しい夜のバー。
グラスに揺れる氷の透明さ。
はじめて語らう紳士たち。
楽しげな時間がおわり
抽象的な絵画の前で立ち止まる男は城戸。
ある男を眺めるある男
そのある男を眺めるある男・城戸。
その城戸を眺めるスクリーンの前のわたしたちも抽象的で象徴的な絵画の前に立つ。
互いの真実は誰も知らないまま…
(修正済み)
コメントいただきましてありがとうございました😊
腹→原間違ってましてすみません。
絵は、humさんのお考えだと思います。
どなたかのレビューで、二人の子供の上が城戸の子供で下が違う男の子と考えてられる意見も見ました。わかりません。
幾重にも考えられる謎多き作品でした。
城戸の子供は、妻が城戸以外の人を身籠ったからかな?とか思ってましたが。
ラストのバーの場面、田口と腹二人分を自分に偽っていましたね。だから絵にも二人かな?
お忙しいと思いますので、
ついでがありましたら、で結構です。
こんばんは♪早速に返信していただきましてありがとうございました😊
二つとも納得です。
妻と里枝は違う〜❣️ですね。
帰化しているから、と結婚許したけれど、会う度に嫌味を言って下に見たいイヤらしい両親。
また次回お願いいたします🤲
おはようございます😃
コメントしていただきましてありがとうございました😊
納得です。また後ほど、城戸について質問するかもしれませんが、
直ぐになさっていただかなくてもいいです。自分もどう質問するか、と。
無理言ってすみません、
またよろしくお願いいたします🤲