「非常に良くできた青春部活映画」ブルーサーマル といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
非常に良くできた青春部活映画
評判が良かったので鑑賞。予告編すら観てないので事前知識は全くありませんでした。
本作って全然広告見掛けなかったんですけど、広告に金掛けてないんでしょうか。結構面白い作品なのにもったいないですね。
結論ですが、非常に面白かったです。
グライダーを操りチェックポイントを回るタイムを競う「航空部」という聞き馴染みのない部活動を描いた部活ものの映画ですが、これがめちゃくちゃアツくてカッコイイ。ほとんどの人が馴染みのない珍しい部活動が題材なので、完全にグライダーについての知識が無い人に向けた脚本になっているのがありがたいですね。私はスポーツ全般に疎くて知識が無さ過ぎるんですが、例えば野球やサッカーのようなメジャーなスポーツを題材にした作品は、専門用語を「当然ご存知ですよね?」と言わんばかりに何の説明もなく登場させるので正直苦手なんです。本作に関しては全くそんなことなくて細かいところまでしっかり説明してくれるので、知識ゼロでもしっかり楽しめる作品になっていました。
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キラキラしたキャンパスライフに憧れを抱いて青凪大学に入学した都留たまき(堀田真由)は、ちょっとした事故で航空部のグライダーを破損させてしまい、弁償するために航空部に雑用係として入部することになった。嫌々ながら航空部の仕事をしていたたまきだったが、航空部主将の倉持(島崎信長)に乗せられてグライダーで空を飛んだことをきっかけに、一面に広がる空の美しさに魅せられていく。
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本作の主人公である都留たまきを演じたのは、声優初挑戦のモデルの堀田真由さんです。最近のオリジナルアニメ映画はメインキャラクターに俳優さんやタレントを起用しているパターンが多くて、作品によっては映画鑑賞のノイズになってしまうほどに微妙な演技をする方もいらっしゃるんですが、本作の堀田さんの演技は全く違和感が無く素晴らしかったと思います。お世辞抜きで上手かったです。鑑賞後にキャストを調べるまでは完全にプロの声優さんだと思ってました。
脇を固める声優さんも人気と実力を兼ね備えた錚々たる面々で、声の演技に関しては抜群の安定感です。私の大好きなアニメ『あの夏で待ってる』で主人公・霧島海人を演じた島崎信長さんや、ライブに足を運ぶくらい大好きな『アイドルマスターSideM』で舞田類を演じている榎木淳弥さん。それ以外にも、台詞量の少ないキャラクターに至るまでしっかり実力派で固めていますね。テレビアニメからの映画化ならまだしも、本作のようなアニメ映画ではここまで声優を揃えているのはかなり珍しい気がします。
ストーリーに関しても非常に面白く、「ひょんなことから部活に入った主人公がどんどんとその部活の面白さに目覚めていき、隠れた才能も発揮して八面六臂の大活躍」という部活モノのテンプレというか王道の展開ですので、そりゃ盛り上がりますし面白いです。
先述の通り、「グライダー」というあまり馴染みのない部活動を題材にしてるため、素人にも分かりやすい解説が入ります。そのおかげで知識がなくても楽しめる作品になっていますね。パンフレットには実際にグライダー競技を行なっている方によるガチ解説が掲載されているのでめちゃくちゃ読み応えがあります。グライダー競技は上空から見渡す一面の青空の映像が非常に美しいので、映画館の大画面で鑑賞した際には一面に広がる青空を観客も体感することができ、漫画を劇場アニメ化した意義もしっかりと感じられます。
「たまきの同期たちがキャラ立ちしている割に出番が無くて勿体ない」というレビューをされている方もいらっしゃいますが、そればっかりは尺の都合で仕方なかったんじゃないかとも思います。出番が少ないからといって登場させなかったら、それはそれで原作ファンから不満が噴出するでしょうし。出番の少ない同期のキャラクターたちにも若手実力派声優が起用されているので、願わくばこの劇場アニメで人気が出て、1クールのテレビアニメになってしっかり彼らの活躍が描かれてくれればいいですね。
ただ、ラストシーンだけは私は気に入りません。
本作のラストは、ドイツで行方不明になった倉持を探すためにたまきが朝比奈に頼みこんでドイツへ向かい、ドイツの空を広い範囲で飛行し、行方不明だと思われていた倉持がたまきの乗るグライダーを見掛けたことで飛行場に姿を現す。もう会えないかと思われていた憧れの先輩との再会という感動のシーンです。
ただ、結局これって倉持さんは何してたんですかね。倉持の乗るグライダーが墜落して行方不明になっていて現地の警察が捜索してるとか「まだ死体は見つかってない」「死んだって決まったわけじゃないじゃないですか!」という倉持の死を匂わせるような台詞もありました。私はてっきりドイツでの生活から逃げ出したくて、墜落を偽装して失踪したのかと思っていましたが、全然隠れてもいないし逃げてもないし普通に私服で街歩いてる。「憧れの先輩との再会」による感動よりも「色んな人に心配と迷惑かけてどこで何やってたんだ」っていう疑問の方が圧倒的に強くて全然感動できなかったですね。
調べてみると、やっぱり原作は倉持はグライダー事故によって死亡した(かもしれない)という展開で、倉持が出てきて感動の再会する展開は映画オリジナルらしいですね。これに関しては完全に原作改悪です。原作通り倉持の生死は不明のまま、グライダーでドイツの空を飛ぶたまきが「これが倉持さんが見た景色か…」って言ってエンディングを迎えた方が100倍良かったと思います。
ただ、ラストの不満点が些細な問題に感じるくらい全体的には楽しめましたので良い映画だったと思います。オススメです。