ほんとうのピノッキオ : 特集
ピノッキオって本当はヤバい!人気者の知られざる素顔
【良作保証】アカデミー賞も認めたダークファンタジー
誰もが知るかわいらしく元気な人気者・ピノッキオ。その知られざる恐るべき“素顔”を美しくも残酷に描き出したダークファンタジー「ほんとうのピノッキオ」が11月5日より公開される。
ウォルト・ディズニーによるアニメーション映画のイメージが強いピノッキオ。しかし本作では、19世紀末に出版された原作(児童文学)の持つ“深遠な世界観”を、最新の技術を用いて追求! 製作国イタリアでの大ヒットに加え、米アカデミー賞2部門(衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞)にノミネートされるなど、エンタテインメント性と芸術性を兼ね備えた大人の映画に仕上がっている。
こちらの特集では、本作の“ほんとうの”魅力を徹底的に解き明かす。
実は怖い童話の世界 ヤバいエピソードがいっぱい!
白雪姫の恐るべき復讐とは?シンデレラの義姉は指を…
そもそも童話や寓話、おとぎ話は残酷で恐ろしいものである。子どもたちが受容しやすい“おはなし”という形式にしつつ、「嘘をついてはいけない」「危ないから暗い森に入ってはいけない」など生きていく上での“警告”を骨身に染み込ませるため、怖くなくてはいけなかったのだ。
いまでは情操教育の観点からマイルドな表現になっているものの、“コンプライアンス”などという概念がなかった時代のオリジナルの物語には、ヤバ過ぎるエピソードがいっぱい! ここでは誰もが知るあの名作の恐るべき真実を紹介する。
●「白雪姫」
毒リンゴや魔法の鏡、王子様のキスなど、“プリンセス”要素満載でいまなお愛される「白雪姫」の物語。ヒロインの美しさに継母が嫉妬して……というのが定番だが、元の話では白雪姫を殺そうとしたのは継母ではなく、なんと実母だったという。さらに最後に王子様と結婚した白雪姫は、自らを殺そうとした母を結婚式に招待し、焼けた鉄の靴を履かせて死ぬまで踊らせたという!
●「シンデレラ」
この物語のキーアイテムと言えば、何と言ってもガラスの靴。シンデレラが残していったガラスの靴を頼りに王子様が彼女を探そうとするくだりがあるが、オリジナルではシンデレラの意地悪な義姉たちは、足のサイズを合わせるためにナイフでかかとやつま先を切り落とすという過激な描写も!
さらにシンデレラと王子様の結婚式で、義姉たちは鳥に目をくり抜かれてしまう……。こうした残酷エピソードを子どもの頃に聞いたという人も多いかもしれないが、現代では絶対NG!
ピノッキオもまた、そんな「本当は怖い」エピソードが満載。さて、映画では何が描かれるのか? おとぎの国の奥深くへ分け入っていこう。
【比較検証】これこそが“真のピノッキオの物語”!
伸びる鼻にコオロギ…誰もが知る物語とこんなに違う!
19世紀末にイタリアで出版された原作「ピノッキオの冒険」は、貧困や人間の醜さ、欲望の罪深さを示す描写がふんだんに盛り込まれている。1940年にディズニーによってアニメーション化された映画は、そうしたダークな描写、社会風刺といった部分を巧みに削ぎ落としたばかりか、明るく素直な主人公による冒険物語に仕上げ、世界中でいまなお愛されるアイコンを作り上げた。
一方で “描かれなかった”部分にもまた、物語のエッセンスが詰まっている。それを真正面から描いているのが、本作「ほんとうのピノッキオ」である。ここでは、誰もが知るピノッキオ像と比較を交えつつ本作ならではの魅力を紹介する!
●ピノッキオが悪童すぎる 人の言うことをまったく聞かない
ディズニー版では“好奇心いっぱいのいたずらっ子“として描かれるピノッキオだが、本作ではいたずらっ子などというかわいげのあるレベルを超えて、もはや“悪童”の域に……。
命を授かるやいなや、“父”ジェペットの言葉に耳を貸さずに大脱走! さらに学校に向かう道では、人形劇の一座を見かけ、好奇心を抑えきれず、ジェペットが苦労して工面した教科書を売り払いチケット代にしたりもする。
嘘をついて鼻が伸びるシーンなど、ディズニーアニメにも登場する描写も多いが、本作ではピノッキオが自分の欲求の赴くまま、主体的に道を踏み外していくのが特徴である。
●これ、もしかしてジミニー・クリケット…? ダークでチャーミングな生き物たち
ディズニーアニメーションにおいて、ピノッキオの“良心”となって彼を導き、一緒に冒険を繰り広げるのがコオロギのジミニー・クリケット。ディズニーランドでも見かける人気者は、本作にもしっかりと登場する。
しかし“ジミニー・クリケット”という名前自体がディズニー映画で与えられたものであり、本作では名無しの“コオロギ”として……いや、言われなければコオロギとはとても認識できない奇妙な造形で姿を現すから仰天!
その他、ピノッキオを動く人形にしてくれる妖精は、青い巻き髪の、朝起きるのが苦手そうな少女として登場。「ここの住人は皆死んでいる」とボソリと語るなど、美しくも退廃的なムードが漂う。妖精が従えている巨大なカタツムリ人間や、終盤に登場するマグロなどなど、一度見たら忘れられない、怪しくもチャーミングなクリーチャーたちが物語を彩っている。
●まさかの社会派ファンタジー 貧困と人間の愚かさもがっつり描く
マッテオ・ガローネ監督は原作の児童文学を「貧困と社会のあり方をテーマにした物語」と評しているが、そうした視点はこの映画にも取り入れられている。
例えばジェペットの設定。ディズニーアニメでは手づくりの時計に囲まれ、質素ながらも温かい家で暮らすが、本作ではいい加減な性格なので周囲に相手にもされず、ほとんど仕事がなく、貧しさの中であえぐ様子が描かれる。
さらにピノッキオを騙すキツネとネコも人間として登場することで、その“人間性”――醜さや欲望――が際立つ。ピノッキオの存在はもちろん、彼が出会う人々やクリーチャーを通して、童話には似つかわしくないほど“社会”が映し出される。
ほかにも、クライマックスの見せ場をはじめ、スペクタクルであると同時に「え? あの有名なシーンがこんなふうになってるの?」と驚かされる描写や設定も多数! あなたが知っているピノッキオの物語と比べながら、奇妙で美しい世界と“人間”ドラマを堪能してみては?
【良作保証!】アカデミー賞2部門候補は伊達じゃない
デル・トロ、T・バートンの系譜の奇妙な美しき世界!
本作をただの「童話の映像化」にとどまらない、大人が楽しめるダークファンタジーに昇華しているのは、意匠をこらした映像や美術のクオリティの高さ、そしてキャストの名演による部分も大きい。
●奇妙な世界を構築する素晴らしき衣装デザイン、メイクアップ&ヘアスタイリング
物語のみならず映像や美術、ファッション、特殊メイクからさえも哲学的な深みを感じさせるあたり、ギレルモ・デル・トロ(「パンズ・ラビリンス」「シェイプ・オブ・ウォーター」)、ティム・バートン(「アリス・イン・ワンダーランド」「チャーリーとチョコレート工場」)といった巨匠の作品にも通じる。ちなみにデル・トロは、Netflixでストップモーション・ミュージカルアニメ版「ピノキオ」を製作中だ。
CGに頼るばかりでなく、特殊メイクも組み合わせながらこの美しくも奇妙な世界を構築。ピノッキオを演じた子役は毎回、数時間をかけて特殊メイクを施されたという。米アカデミー賞では衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされており、キャラクターたちが作り上げた独特の美しい“世界観”がハリウッドでも認められた。
●大ヒットを記録したもうひとつの理由、それは「ライフ・イズ・ビューティフル」
イタリア国内のアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では15部門ノミネートで5部門を受賞し、その年の国内映画としてNo.1のヒットを記録するなど興行的にも高い評価を獲得した。
ちなみに日本でも大ヒットを記録し、アカデミー賞主演男優賞、外国語映画賞(現・国際長編映画賞)を受賞したイタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」の監督・主演のロベルト・ベニーニが、ジェペット役を演じている。ベニーニ自身、過去には自ら監督・主演(ピノッキオ役)で映画「ピノッキオ」を作ったことがあるが、本作ではピノッキオを溺愛しつつ、振り回されっぱなしのジェペットを味わい深く演じているのも注目! 「ライフ・イズ・ビューティフル」はもちろんイタリアでも大人気で、ベニーニ目当てで家族連れが劇場へ詰めかけたのも、「ほんとうのピノッキオ」が大ヒットした要因のひとつだという。