「阿部サダヲの狂気」死刑にいたる病 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
阿部サダヲの狂気
最初から、グロさ満載のサイコ・サスペンス。櫛木里宇のタイトル同名の小説を、暴力や人の怖さを描いたらピカイチの、白石和彌監督がメガホンをとった話題作。
とにかく、サイコキラー役の阿部サダヲの演技に呑み込まれた2時間。彼は、人情モノの心を揺さぶる役から、笑いを誘うコミカルな演技、そして、今回のような、恐ろしい殺人鬼の役まで、幅広くこなし、主役でも脇役でも存在感を示す、オールマイティーな役者だ。
本作では、決して言葉を荒げたり、威嚇したりすることはなく、何処にでもいる真面目で、穏やかなパン屋の店主として微笑む姿が、その裏に潜む狂気に満ちたサイコキラーとしての怖さを倍増する。逮捕されてからの面会室での描写も、24人もの少年少女を殺してきた殺人犯とは思えないような冷静な態度で、淡々と自分を分析して語る姿は、一層の恐怖をあおる。
ストーリーは、連続殺人犯で逮捕され、拘留中の榛村大和から、三流大学生の筧井雅也の所に、「ぜひ、面会に来て欲しい」という手紙が届く。雅也は、中学生の頃から、パン屋の榛村の店も訪れて顔馴染みでもあった。面会に行くと榛村は、「23人は確かに自分が殺したが、最後の1人は自分がやったのではない」と伝え、雅也に別の犯人を突き止めて欲しいと依頼する。そして、雅也は単独で、その調査に乗り出し、新たな犯人像も見え隠れする中で、雅也自身にとったても、残酷で驚愕な事実へと繋りを見せ始める…。
本作での怖さは、榛村が、人の好い一面を見せ、次第に被害者との信頼を築いてから拉致し、爪をはぎ、骨を砕き、切り刻み、拷問によって奈落の底へと突き落とし、極限の中で惨殺されていく恐怖である。そして、巧みな話術や行動によって、榛村の術中にはまり、犠牲となっていく純真で真面目な少年少女の姿。
こうしたマインド・コントロールとも言える榛村の怖さが、面会室で筧井が榛村が対峙するシーンによく表れていた。犯罪者と犯罪者でない者を隔てる、面会室でのアクリル板。そのアクリル板に反射する榛村の姿を利用し、いかにも、筧井のすぐ横で悪魔の囁きをしたり、心身の中にまで忍び込むように、筧井と重なって榛村を映し出したりするシーンは、白石監督の巧みな映像アングルとも言える。
一件落着後もまた、狂気的な怖さを引きずるような、意味ありげなラストシーンで、エンドロールが流れた。