「想い永遠」余命10年 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
想い永遠
邦画十八番の感涙ジャンル、難病×純愛もの。
もうこの組み合わせは絶対ってくらい、次から次へと作られる。
本作もあらすじはありきたりでベタ。
数万人に一人という難病で余命10年と宣告された茉莉。恋はしないと決めていたが、同窓会で再会した和人とやがて惹かれ合い…。
何度も見たよ…な設定だが、本作ならではの魅力もあった。
まず本作は、原作者自身をモデルにしている点。
原発性肺高血圧症という難病を発症し余命宣告を受けながらも執筆を続けた原作者の小坂流加。本作の原作小説を自費で出版し、やがてSNSなどで人気に。2017年、37歳の若さで死去。生きる事への喜びと切なさ、人生の素晴らしさ、愛する事の美しさ、病気の苦しみ…原作者の思いが込められた物語は胸打つ。
そんな思いに心動かされたのが、監督の藤井道人。『新聞記者』『ヤクザと家族』などシリアスな社会派作品を手掛けてきた俊英が、恋愛映画初挑戦。他の恋愛映画と違って、本作を見てみたかった理由の一つが、これ。本物の日本の四季の映像にこだわり、約一年間に及ぶ撮影。ビデオカメラ映像や桜の花が舞うシーンをスローモーションで撮ったり、繊細で透明感のある映像美。花や小道具一つ一つにも原作者の思いを反映させ、新たな手腕を振るった。
そして、小松菜奈。これまでにも多くの恋愛映画に出演してきたが、とりわけ思い入れが強かったという本作。役作りの為に減量もし、一年間の撮影や亡き原作者への思いを込めた佇まい、キュートさ、美しさ、強さ、儚さを体現した熱演は見る価値あり。
病に侵された薄幸のヒロインをイケメン好青年が支える…とはちょっと違う二人の関係。
会社社長の息子である和人。継ぐ事を考えていたが、期待に応えられず、自身の不甲斐なさから諦めていた。それどころか、夢や生きる希望を失い、居場所も見つけられず、自殺を考えていた。同窓会後、実行。命は取り留めたが…。自ら命を絶とうとする和人を茉莉は「ズルい」と言いつつ、「もう死にたいなんて思わないで」と言葉を掛ける。この言葉に、和人は生きる勇気を貰う。
寧ろ、和人の方が支えられる。だが、和人は知らなかった。茉莉の余命を…。
見ている私たちは知っている。命の期限がある彼女が言うからこそ、命の尊さが響く。
夢も持ち、そんな和人が茉莉に惹かれるのは至極自然だ。
茉莉も和人の優しさ、温かさ、穏やかさに惹かれていく。
が、二人が出会い、惹かれ合うという事は、必ず訪れる悲しい別れから避けられないという事でもある。
そんな思いをするんだったら…。自分の為にも、彼の為にも。
しかし、二人の想いはどんどん強くなっていく。
ずっと一緒にいたいのに、いられない。
この切ない想い…。
極端なキス・シーンやラブシーンも無く、その適度でありつつ強い想いが、心と心のラブストーリーのようであると感じた。
また、家族や友人…大切な人たちへ伝えたいドラマでもある。
過保護気味だけど優しい父、あるシーンで肩で泣かせてくれ抱きしめてくれた母、何でも言い合える親身な姉…。松重豊、原日出子、黒木華が好演。
友人役の奈緒、ムードメーカーな山田裕貴、担当医の田中哲司や居酒屋店主のリリー・フランキー…皆と織り成す交流も温かい。
原作ファンによると、変更・改変も多いとか。
原作では漫画家デビューする茉莉は小説家へ、和人は茶道の家元の跡継ぎから会社社長の息子へ。Wikipediaで調べたが、ラストシーンの描かれ方も違う。
賛否の声はあるみたいだが、未読者からすればヘンな違和感は無い。寧ろ小説家への変更は原作者自身と重なって良かったように思う。
時々辟易する難病×純愛もの。これまでのとは何が違う…?
上記の感じたものから、同ジャンルでも好編に感じた。
病でも自然に生きても、限りある命。
が、その中で育まれた想いは、永遠。
限りある命
どうしても親目線で見てしまいました。
松重豊、原日出子。
娘に先立たれる悲しさ。
苦しみから解放されるであろう安心感。
きっと、
想い永遠・・・
そう思います。
> デビュー作の『渇き。』から惹き付けられる女優です
そうか。小松さん(菜奈)は、中島監督に鍛え上げられたんでしたね。「来る」で「なんだ?小松、青春映画でチヤホヤされて天狗になっちまったか?」「そんなことないです、監督。また鍛えてください」といった会話があったような話を聞きました。俳優にとって、そういう鍛えられる時期があるといいですよね。女優好きな俺としては、すべての女優がそういう機会に出会えればいいのに、とかなり本気で思ってます。