「ソウルのうた」リスペクト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ソウルのうた
“ソウルの女王”アレサ・フランクリン。
ドキュメンタリー映画にもなり名前くらいは聞いた事あるが、知ってるのはそれくらい。またまた自分の無知をさらけ出すようだが。
代表曲は?…と問われても、曲名が出てこない。しかし、劇中で披露した歌を聞いたら、知ってる知ってる! 『ベスト・フレンズ・ウェディング』やバラエティー『スカッとジャパン』で聞いた事ある。
アメリカ音楽史上、最も偉大な黒人女性シンガー。
圧倒的な歌声とそれを通じて、自由への道を切り拓いた波乱に満ちた人生。
その渦中で誕生した名曲の数々。
2018年に亡くなるまで多大な功績を記した。
アレサを演じるには、演技が出来、歌が歌えなければならない。
その条件をクリアしたのが、『ドリームガールズ』のオスカー女優であり、グラミー賞受賞シンガーでもあるジェニファー・ハドソン。
彼女自身もアレサを“リスペクト”し、生前中も交流あり、アレサ本人から自身の役に直々に指名。
『ドリームガールズ』後、正直役者としてはスランプが続いていたが、新たな代表作誕生と言っていいパフォーマンス。
入魂の熱演、さすがと言うべき圧巻の歌声。
それらが心を揺さぶる。
オスカーにノミネートされなかったのは残念。(今回の主演女優賞レースは強力ライバル多かったからね~)
幼い頃から歌う事が好きだったアレサ。
その原動力は、“ブルースの女王”ダイナ・ワシントンと、ゴスペル・シンガーであった母。
牧師で公民権運動活動家の父の教会でゴスペルを歌い、天才少女として注目を浴びる。
父の下で歌い続けていたが、束縛する厳格さと活動に利用される事に疑問を抱き、父との間に溝が…。
父の下を離れ、マネージャーのテッドと結婚。
が、彼はDV夫で、彼もまたアレサの名声を利用するようになり…。
その歌声は人々を魅了し、彼女の名声もうなぎ登り。その背景で…、
父との確執。
DV夫と決別。
プライベートは苦難続き…。
歌手としても当初は五里霧中。
自分は何を歌いたいのか、何の為に歌うのか。
体現し、そこから生まれた名曲たち…。
大切な人々との死別。
幼い頃の突然の母の死。
父を通じ交流のあったキング牧師。彼の暗殺。
(父も1979年に凶弾に倒れ1984年に亡くなるが、本作は1972年のゴスペル・アルバム製作とコンサートまでで、そこまで描かれない)
光の部分は氷山の一角。陰の部分にこそ、“アレサ・フランクリン”の本当のドラマがある。
一本の映画としても豊富なエピソードばかり。
とてもとても2時間半に収まり切れないくらい。
そうなのだ。
数々の逸話をただ並べ語った、残念ながらよくあるレジェンド・シンガーのステレオタイプの伝記映画の域を出ていない。
アレサ・フランクリンを知らない人には教科書として見易いが、これまたそう、教科書通りのような作り。
お行儀よく作り、あっと驚く趣向や斬新さは感じられない。
アレサ自身のエピソード、ハドソンの熱演はいいのに、演出や脚本が平凡過ぎて、名作になり損ねた。
だが、アレサが歌を通じて歩み闘った真実は胸に迫る。
黒人たちへの差別や偏見。虐げられる同胞たちへ。
女性たちへのエール。まだまだ男性上位の社会の中で立ち上がる。
そして、自由を求める者たちへ。
魂(ソウル)の歌を捧げる。