「歴史好きでも、エンタメ好きでも楽しめる」信虎 スキピオさんの映画レビュー(感想・評価)
歴史好きでも、エンタメ好きでも楽しめる
武田信玄の父、信虎を主人公とした武田氏の滅亡と再興のお話。
歴史好きとしてはかなり面白いです。通常、信玄が主役の話は、父の信虎は悪者扱いですね。暴君で民衆や家臣の反発を招き、息子の信玄に国を追い出され放浪します。信長の父信秀もだいたい悪い感じで書かれますが、武田にせよ織田にせよ、家の基礎を築いたのは親父さんの功績なのは疑う余地もない。
織田信秀は42歳で亡くなりましたが、信虎の方は81歳まで生きました。息子の信玄よりも長生きで、最後は高遠というと信濃の国に戻って亡くなっている。
この事実や、甲陽軍鑑という書物の記述などの断片的な「事実」を繋ぎ合わせて、大きな歴史フィクションを描いたのが、本作。
物語は門構が映ったあと、室内に映像が切り替わり、パッと床の間の飾り棚がアップで映されます。これが素人目ですが、むっちゃ本物っぽいんですね。そこから、5代将軍徳川綱吉と側用人、柳沢吉保のシーンにうつり、一時途絶えてた武田家が再興される場面になります。と、ここまでで「この作品は事実、本物に拘りますよ」と、伝えているですね。
実は本作は低予算映画なので、時代劇の見せ場である合戦シーンとかは、すごくショボいんです。でも冒頭のシーンで、観客に本物をやりたいんです、って言い訳がちゃんと効いているんですな。
物語はちゃんと冒頭の伏線にラストで繋がって、こんな歴史もあって良いね、って話。武田滅亡を描きつつ、ちゃんとハッピーエンドになるような救いがあってエンタメとしても楽しめる。一方で、かなり歴史考証がしっかりしている作品のようで、高遠城で孫から信玄の死を聞くシーンなぞ、ちゃんと孫の年齢を正しく設定していますね。
これは良作です。