「韓国のラブストーリー映画の系譜」ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版) 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
韓国のラブストーリー映画の系譜
少し寂れた趣の住宅街の片隅、足の不自由なジョゼのものと思われる低い視点からの庭の木や風の舞う路地の風景に小鳥や風の音が聞こえ、雑然とした家の中、本棚や台所の様子がやわらかな光と薄暗い影の中に映し出され、そこに美しい音楽とふたりのナレーションが被る。この冒頭シーンは、韓国映画の名作「八月のクリスマス」を想起させ、韓国のラブストーリー映画の系譜を感じさせる。
日常の中の偶然の出会い。それを劇的に映し出すのではなく、セリフは最小限に抑えられ、自然音の中で静かに、じっくりとふたりを捉えることによって、それが運命的な出会いとなることを予感させる演出は秀逸だ。脚本も手掛けたキム・ジョングァン監督は、オリジナル版のエッセンスを巧みに取り入れながら、四季が織りなす映像美を背景に、官能的でみずみずしい美しさにあふれた物語に仕上げていて、映像で語ろうとするその静かな切なさが全編に貫かれている。
演技派女優ハン・ジミンがジョゼを、人気沸騰中の若手俳優ナム・ジュヒョクが青年ヨンソクを演じている。四季を通して次第に変化していくふたりの心情が痛いほど切ない。ヨンソクを思いやって拒絶しながらも、ジョゼが外の世界に追いかけていく雪のシーンは、映画史に刻まれることだろう。
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