「イデオロギーと言うよりはアイデンティティと言ったほうがスッキリする。」スープとイデオロギー kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
イデオロギーと言うよりはアイデンティティと言ったほうがスッキリする。
ヤン・ヨンヒ監督の『かぞくのくに』(2012)を未見のままの鑑賞となりましたが、『ディア・ピョンヤン』(2006)でもかなり彼女の家族については語られていたので、多分問題はない・・・と思う。
朝鮮総連の活動家だったアボジが亡くなり、今度はオモニから固く禁じられていた日本人との結婚を告げるヤン・ヨンヒ。前半では「スープ」作りの映像が中心となり、トリの中に青森ニンニクを40個入れて5時間煮込む作業。民族が違っても家族は家族!スープレシピの直伝によって荒井さんも家族になったんだと感じるほのぼのした展開。
中盤以降はオモニが語る「済州島4・3事件」の体験。夫を亡くしたことにより記憶が蘇ったかのように、彼女は堰を切ったように語り始める。先祖が北朝鮮出身の在日だが、大阪大空襲を経験して済州島に疎開した家族。オモニは1948年のその事件のとき18歳。医者の婚約者もいたが、家族とともに軍の虐殺に遭ったのだった。オモニのオモニの計らいにより密輸船で辛うじて日本に逃げたオモニ。大阪で知り合った現夫と知り合い結婚するが、その事件をきっかけに南朝鮮を憎むようになった・・・等々。
1万数千人の大虐殺(未だ行方不明の者も多い)。清らかな川は血で染まり、生きたここちがしなかった住民たち。何しろ動いている者は撃てという命令があったとか。韓国の暗黒史は多分軍事政権によって隠蔽され、伝えられることもなかったのだろう。そして、どの国においても歴史修正主義者が跋扈するという現実。研究者たちが生存者を訪ね歩いて記録を作るしか道はないのだ。
オモニの家にはキムウィルソンやジョンウンの写真が飾られていたのも印象的だったけど、やがて新しい家族写真がそれに取って代わる。イデオロギーの対立はさほど感じられなかったけど、監督自身の「アナーキスト」感や、北朝鮮には入国できない現実と日本に馴染んでいく姿が民族を超えたアイデンティティを感じさせるのです。国籍なんて問題視しない。住み着いたところが故郷なのだから。
共感します。イデオロギーと言うよりも体制に引き裂かれたアイデンティティの回復に感じました。
それがアルツハイマーが発端になっていると思いました。イデオロギーがあれば、彼女は韓国国歌など歌うはずもないですからね。