劇場公開日 2021年10月15日

「羅生門の手法で描いた中世版「テルマ&ルイーズ」」最後の決闘裁判 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5羅生門の手法で描いた中世版「テルマ&ルイーズ」

2022年1月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

昨日、黒澤の「羅生門」を観て、翌日に本作を観ることになった。すると両作とも手法が「羅生門」スタイルだったので、出来すぎた偶然に驚かされた。何よりも今にしてもなお、その映画手法が世界に影響を与え続けている黒澤監督の偉大さに頭が下がる。

「羅生門」は平安時代の強盗殺人レイプ事件をめぐって、被害者とその妻、犯人と、最後に目撃者の証言をそれぞれ映像として描き、人間のエゴをむき出しにしていく作品だった。
本作は、中世ヨーロッパの封建領主間におけるレイプ事件をめぐって、領主と被害者の妻、加害者の領主の3人の証言を、やはり別々に映像化して、どれが真相なのか観客に想像させるものである。

これは黒澤作品と違い、3人の証言がまったく異なるわけではなく、「妻と加害者に合意があったか否か」だけが争点となっている。そして時代背景、宗教裁判の実態を考えれば、状況証拠としては真っ黒だから、羅生門手法は①妻の証言で犯行に至る経過やその後の反響が徐々に明らかになっていく点や、②領主双方の人間性が別々の観点から膨らみをもって描かれている点――に効果を生んでいる。
両者とも自己の非を認めないことから、最後は領主同士が戦って「真実」を決定することに。中世騎士の戦いはリドリーには手慣れたもので、今回も最後の決闘シーンは息をのむ迫真性に満ちている。
その中でレイプに対し泣き寝入りせずに、世間や家族と戦いながら真実を貫く女性の姿を描くことが本作の狙いであり、女性にとっては痛快極まりないだろう。中世版「テルマ&ルイーズ」といった趣が面白い。

徒然草枕