「素晴らしい映像美で中世ヨーロッパを体感!」最後の決闘裁判 けいちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい映像美で中世ヨーロッパを体感!
舞台となった1380年代は、日本なら南北朝時代末期、1368年に征夷大将軍になった足利義満が1378年に京都室町に「花の御所」を建設してそこで政務を執るようになったので、むしろ室町時代に当たるでしょう。一休さんが将軍様をギャフンと言わせていた頃でしょうか?でも一休さんの頓智でも、裁判を平和裏に解決するのは困難と思います。
一方、ヨーロッパでは1347年から約5年間にわたりペストが大流行して人口が1/3になり、農業人口が減少して荘園制が崩壊し諸侯や騎士が疲弊・没落してきた頃だと思います。なので100年戦争真っ最中ながら、マット・ディモンは自身の領地の農業従事者減少を嘆き、親友ながらアダム・ドライバーとお金のことで揉めているのだな?と思いました。ちなみにエピローグで、十字軍に従軍、というくだりがあり、「あれ、エルサレム奪回を目指した十字軍は最後の第7回でも1270年のはずだけど?」と思いました。
調べてみたら、1300年代末期、オスマントルコ帝国が東欧に進出し、1396年ハンガリーのニコポリスでハンガリー王とそれを支援するヨーロッパ諸侯・騎士との戦いがあり、これは「ニコポリスの戦い」と教科書に書いていますが、「ニコポリスの十字軍」という表記もあるようなので、おそらくこの戦いを指していると思います。
また、「esquire」を映画字幕では「郷士」ではなく、「従騎士」と訳しており(調べてみたら本来はこちらの意味が先、騎士志願者のこと、さらにバニーガールのいるお金持ちのおじさんがいくクラブの名前だけでもありません)、さらに戦場で「knight」に叙せられることがあるなど、なかなか勉強になる映画でした。
リドリー・スコット監督らしい素晴らしい映像美で、まるで中世ヨーロッパにタイムスリップしたような感覚で映画を楽しめました。ただ、彼の代表作である「ブレードランナー」や「グラディエーター」では魂を鷲掴みされるくらいの衝撃を受けましたが、本作はそこまでではありませんでした。期待値が高すぎたのかもしれませんが、リドリー・スコット監督の歴史大作を期待するな!というのは無理と言うものです。
振り返ってみればハリソン・フォードもラッセル・クロウも強いけど悲しみを抱えた主人公だったので、それが感情移入し易く、映画に没入できる理由の一つだったのかも?とも思います。一方、本作のマット・ディモン扮する主人公ジャン・ド・カルージュは現代の価値観ではやや微妙な人物なので(史実に忠実なのかもしれません)、残念ながら、そこまでの感情移入ができず、一歩引いて観ている感じでした。
とはいえ、観る価値のある映画です。