「歴史物かと思いきや、ばりばりの現代劇としても観ることができる一作。」最後の決闘裁判 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
歴史物かと思いきや、ばりばりの現代劇としても観ることができる一作。
リドリー・スコットらしい重厚な映像と人間ドラマが主軸となっている作品。とはいえもちろんスコット監督のことだから、単なる歴史物は作らないだろうなー、と思っていたら、やはり痛烈な現代批判の視点をふんだんに盛り込んだ作品でした。
14世紀のフランスで実際に起こった事件と、それに基づいて行われた決闘裁判を扱っており、しかも原告側とその妻、そして被告側とが互いに食い違う証言をする、という物語構成となっています。このことから、『羅生門』(1950)と結びつける評論が多く、実際のところ本作がかの名作に影響を受けていることはまず間違いないんですが、実のところミステリー的な要素はそれほど強調されていません。そのため、巧妙に張り巡らされた謎やその鮮やかな解決を期待すると、肩透かしを食らったと感じるかも知れません。
その代わり本作が繰り返し強調しているのは、一番の被害者であるはずの貴族の女性が、法的にも社会的にも、徹底的におとしめられ、辱められる姿です。もちろん一連の描写を、中世ヨーロッパの価値観だから、で片付けることもできそうですが、作中の被害女性に対する扱いや心ない中傷(特に女性の義母の発言は、非常に心に突き刺さります)が、そのまんま現代の状況を踏まえていることは一目瞭然です。歴史物だから、で片付けようとしていた観客にスコット監督は鋭い刃を突き付けているのです。これは過去のことでも、空想上の物語でもないんだぞ、と。
実は史実の事件にはすごいどんでん返しがあって、それが「最後の決闘裁判』の真の意味につながっているのですが、その顛末は映画だけでなく、その原作であるエリック・ジェイガーのノンフィクション『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』を読むか、ネットの情報を調べてもらう必要があります。ただしそうした情報は、「絶対に」観賞後に調べることをおすすめします!
史実と比較することで、スコット監督が何を強調し、何をあえて描かなかったのか、そして本作を通じて何を訴えたかったのかが、より明らかになると思います。