「これも1つの「移民の歌」」ブルー・バイユー regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
これも1つの「移民の歌」
幼少時に養子としてアメリカに移住したはずが、手続きの不備により不法移民扱いとなってしまった韓国系男性の苦難を、やはり韓国系アメリカ人のジャスティン・チョン自ら監督・主演で描く。にわかには信じがたいも、これが実際に起きている問題というのが移民の国アメリカらしい。
アジア系である事、前科持ちである事ゆえの差別を扱った作品に『クラッシュ』(クローネンバーグ作品じゃないほう)があったけど、こちらも貧困事情が絡んだどうしようもない負の連鎖が描かれる。ストーリーに終始漂う不安・情操感を煽るため、ザラついた16ミリフィルムでの映像が功を奏している。劇中で妻役のアリシア・ヴィキャンデルが歌う「ブルー・バイユー」が、辛いながらも幸せに生きたいという自身の願いと、忌まわしき記憶に苛まれる夫の心情それぞれを表す。夫にとってこの歌は「移民の歌」でもある。
ただ肝心の人物描写が弱い。主人公の妻の前夫である警官の立ち位置がブレていたり、主人公がフラッシュバックとして頻繁に思い出す記憶も抽象的すぎて、かえってノイズに。何よりもその主人公が後半で取る行動があまりにも浅はかなので、感情移入がしづらくなってしまうのが辛い。ジャスティンは色々とやりたい事を詰め込みすぎたか。『シャン・チー』そっくりなシーンにはちょっと笑ったけど。
でも決して悪い内容ではないし、何よりもアメリカと移民という切っても切れない社会事情を知るには最適。カンボジア難民から全米のドーナツビジネスで財を成した男の半生を追った『ドーナツキング』と併せて観るといいかも。