「沈痛」沈黙のパレード U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
沈痛
実に…重々しい。
被害者遺族をも描いているから当たり前なのだが。
色々と込み入った物語で、思考のベクトルが一方向ではなく、多発し多岐に渡る。そう言った内容でありながらも、1つに集約していく様は流石というべきなのだろうか?こういう状態を指す言葉も、きっと物理学にはあるのだろう。俺は知らんけど。
導入が見事だった。
ヒロインと言ってもいいのかな?高校生の女の子なのだけど。実に魅力的に描かれていて、清々しい気持ちになってきた所で、一転、呆然とし愕然となる。とんでもない理不尽が突きつけられる。そこからが本編の始まりだ。
正直、村上淳さんに惹かれて観にきたと言っても過言ではない。彼が今回のターゲットで、彼を崩して行くのだろうと思ってた。だから、村上氏のファーストカットの眼差にゾクゾクしてた。
これば一筋縄でいかないぞ、と。
だからこそ、彼が殺害された時、椅子から転げ落ちそうなくらい衝撃的だった。「え、嘘…彼と対決するんじなないの??」
中華のコースを頼んだ3品目に、突如パスタが出てきた上に、今まさにチーズをガリガリと削り出さんとする店員が「どのくら削りましょうか?お客様」と無言の圧力で、目を覗き込まれてる時くらい狼狽えてた。
もう、ここからは苦痛の連続だ。
娘の死という耐え難き理不尽に見舞われた「なみきや」側の人々が容疑者として扱われる。
なみきやの人々はとても仕上がっていて、とてもとても素敵で、飯尾氏を筆頭に皆様絶品だった。
だからこそ、痛々しい。俺はおそらく北村氏に感情移入してたのだと思う。
15年前に起訴できなかった容疑者の再犯。完黙で不起訴なんてルールはホントにあるのだろうか?
悔しかったのだと思う。あらゆる状況証拠は犯人である事を示しているにも関わらず落とせなかったのだろう。
自分が捕り逃がした犯人。その犯人を殺した容疑で、その犯人に殺されたであろう身内を容疑者として取り調べる。…ゲボ出そうや。
北村氏も熱演であり、好演であった。
タネが明かされてみれば、なるほど素人が考えたにしてはよく出来てる程度の事なのだけど、そこに至るまでの葛藤や経緯が尋常ではないのでトリックなどどうでもいいやと、ミステリーにあるまじき感想を抱く。
1つ気がかりなのは、二酸化窒素を使って酸素濃度を低下させるなんて事を誰が考えついたんだろうと。しかもあんなボロ小屋で密閉もされてないような倉庫でも可能だなどと…ある意味、ここはガリレオの見せ場でもあって常人では辿りつかない仮説であるべき程の知識を、あの面子の誰が発案したのだろうと疑問を抱く。
ともあれ殺害に至る構図は悲痛であり、それに関わる人々に悪人が皆無なので、見てて辛い。
北村氏はよく逃げなかったなど思う。壇さんと対峙するまでのHSはとても見応えあった。
結局のところ村上氏は「警察が産んだモンスター」で偽りなく、サイコパスな奴だった。
そして、湯川教授は歳を経て、それなり成長したのだなぁと思える。落とし前の説明が多かったから、通常運転に戻る湯川教授を描けなかったせいもあるのだろうな。
沈黙のパレードってのは秀逸なタイトルだった。
観終わって思うのは葬列ではあるのだけれど、被害者遺族の目線を加味すると、途端にやるせ無さに苛まれる。払拭しきれない感情があり、やり場のない怒りとか、後悔から無言にならざるを得ない状況がありながらも、時間だけは進む。
その時間に押し流されるが如く人生を歩み続けなければならない。
自分達以外の人は、人生を謳歌するべく進んでいく。そこに馴染んでいかなければ、表面上だけでも取り繕わなければという思いもあるのだろうと思う。
その辺りをなみきやの人々は痛烈に表現してくれてた。
実のところ、壇さんが自供しだした時に若干萎えた。正確には突き飛ばした回想によってだけれど。
…血も出てないのなら、何を根拠に殺しちゃったって思ったんだろうか。殺しちゃったと思ってなかったらあんなに取り乱しちゃうには無理があるように思う。
公園に戻って彼女が居なかった場合…死体がないって思った根拠はなんだろう?血痕も残ってないなら、自力で帰ったって事にもなるだろうにと。
血痕、拭いたのかな?
…ちぃと座り心地が悪い。