「長い長い旅へ」流浪の月 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
長い長い旅へ
原作は読んでいません。
幾度も出てきた街の夕暮れの空が、本当に息を呑むほど美しかったです。青インクが滲んだような空と雲が、知らない国の地図に見えたりしました。
◉雨と夜空の物語
雨に惹き寄せられるように、青年佐伯文(松坂桃李)と少女更紗は出遭い、何年か後に、夜空に引き込まれて文と更紗(広瀬すず)は再会する。青年と少女が身を委ねたものは事件ではなく、心の安らぎだったと言うのが話の核になっている。
更紗の少女役を演じた白鳥玉季の、幼い逃亡者の雰囲気が絶妙。観ている者も文の取った行動に共感してしまうほどでした。文は戸惑いつつ更紗に惹かれていく。
◉壊れた人 壊れていく人
文の表情は母親との関わりにおいて既に壊れてしまった人のもので、更紗の表情は堪えてきたけれど、間もなく崩壊する人のものだった。
作品によって怒号を上げたり、無言だったりするけれど、松坂桃李の凍てついたような表情は、いつも何かを予感させてくれていいです。無言がもどかしい時もあるけれど、後で、その訳が柔らかく分かったりする。
広瀬すずの方は、ちはやぶる以来、しばらく作品の中で晴れ晴れと笑う顔を見たことがないような気がします。一度死んでくれのラストシーンで笑いましたかね。
常に翳りと対になったような役が多い。美しいけれど、例えば抱きしめて救うことの出来ない儚さが、こちらももどかしい。
◉やや急進的な破局へ
文は過去の事件を更紗の恋人に暴露されて、彼女(多部未華子)と破局を迎え、更紗も結婚寸前で別れてしまう。骨董屋で、細かな細工の施されたグラスにじっと見入った更紗は、壊れることへの危機を予見していたとか。
ところでDV夫(横浜流星)は、こんな言い方は失礼かも知れませんが、私が予想した倍以上、狂気の瞳を見せてくれたと思います。思えば、この夫も何とも子供っぽくて、もどかしかった。血塗れで担架で運ばれて行きながら、もういいと呟いて更紗の手を離すシーンは切なかった。
制作陣と俳優陣の力が、凄い勢いで作品に昇華してくれたことを、観客として素直に喜びたいと今、改めて思います。
ただし過去の事件が、異様に呆気なく周囲やマスコミに拡散された筋書きは、観ていて少し肩の力が抜けたのは事実です。長尺を生かして、もっと自然にして欲しかった。何なら3時間越えでも 笑
文が自らの身体の異常を告白する、ちょっとホラーめいたシーンから一転して、気持ちを決めた二人を照らす月のシーンの、諦めも滲ませた透明感の素晴らしさ。文と更紗は天空の地図を辿って、長い旅に出る。
「文」は綴る言葉を、「更紗」は織り上げる布を表象していて、しかし、その言葉と布は、誰にも読めない見えない…だったりするんでしょうか。
原作を読んでみます。
Uさん、コメントありがとうございます。
実は松本城が大好きで、近くを通れば寄ってみたいスポットです。
なにかとこじつけてしまったおいらのレビュー。昔から、人が書かないことを書いてみようというスタンスです。
コメントありがとうございます。
狂気を見せる側も追い詰められる側も悲しいばかりではありましたが、一応道が用意されていて、救われるとまでは行きませんが心身共に逃げられたという感じでしょうかね。