「2つの笑顔」流浪の月 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
2つの笑顔
さてさて、やって参りました。化け物俳優・松坂桃李の新作でございます。本作も非常に楽しみにしてました。ただ、やはり重いのは勇気がいる。150分という邦画にしてはかなりの長尺のため、気合を入れて鑑賞。結果、素晴らしい作品でした...こりゃ日本だけに上映するのは勿体ないよ。
どうやら本作の撮影監督は「パラサイト 半地下の家族」の方らしい。お見事だった。光陰や焦点などのこだわりがすごく、映像だけで孤立感や閉塞感が感じられるようになっていた。登場人物がどのようなことを思っているのかがひしひしと伝わる、映画ならでは・映像化したからこそできる技法を多く採り入れていた。また、原作を読んでいない私からすると、どのような言葉遣いでこの繊細さを表現したのかが気になり、原作を読んでみたいなと思った。これほど実写化成功の作品はそうない。既読未読両者どちらでも楽しめると思われる傑作です。
そんな映像も相まってか、重厚感がとてつもなく、なのに時間を感じさせない作品で、最初から最後まで心持ってかれっぱなしでした。映像だけでなく、音楽の質もかなり高い。不意に流れる陽気な音楽でさえ少し怖さを感じさせてしまうほど、鋭く悲しい曲調の連続。おそらくこの映画、無声映画でも胸が締め付けられると思う。そのくらい、映像・音楽・編集・演出が今年の邦画、いや、全ての映画の中でも頭1つ抜けています。今年の映画を語る上で、この映画は欠かせないかなと。
広瀬すず主演の映画で面白いなと思ったのは「一度死んでみた」のみ。「三度目の殺人」も「ちはやふる」も全くハマらなかった少数派です。演技が上手い、っていうイメージも正直ないですし、松坂桃李も出演しているといえど少し不安でした。が、この映画でその印象は完全に覆りました。たった一つの「笑顔」という表情で、2つの想いを物語る。こんなにも孤独な愛想笑いを見たのは初めて。心の中に潜む事件を知る全ての人に対する「諦め」、文(松坂桃李)に対する愛ではない「好き」を強く繊細に表現。こんなにも上手い女優だったのか...。間違いなく、彼女の代表作となるだろうし、アカデミー賞も主演女優賞取るでしょうね。
松坂桃李もまた、怪演です。
この役のためにかなり痩せたらしく、おかげで変態色が強くなっている。傍から見たら変態ロリコン野郎だけど、中身は一緒にいると何故か癒される物静かなお兄さん。これを演技で見せれる彼は何者ですか?ラスト30分なんてもうなんと言ったらいいか...。胸が苦しくて苦しくて、一粒涙を流してしまった。改めて、天才俳優だということを実感させられました。
この2人以上に強烈なのが、カメレオン俳優・横浜流星。めちゃくちゃカッコよくて大好きな俳優なんですけど、今回はもうやばかった、!!目が怖い...。自分が更紗(広瀬すず)を守らなきゃと言って、次第に彼女をコントロールしていく。行動を制限し、暴力を行い、暴言を吐くのにも関わらず、傷ついた彼女を見て抱きしめ、致そうとする。いやもう、ゾッとするどころか、吐きそうになりました。ネタバレになっちゃうのであまり言えませんけど、横浜流星の映画と言っても過言じゃないくらいインパクト大でした。
拭いきれない違和感というのは残ったままで、世間と警察の描写がどうも納得出来ずじまいって感じはあったのですが、役者の怪演・映像美・脚本・構成・音楽などなど、世界に誇れるものが沢山詰まった秀作でございました。カンヌ国際映画祭に出品して欲しいな。見る際は覚悟を決めて、ご覧下さい。