「抑えた渋い演技の中に、笑みを感じさせる阿部寛」異動辞令は音楽隊! Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
抑えた渋い演技の中に、笑みを感じさせる阿部寛
◉鬼刑事の本気と健気と切なさ
予告編で成瀬(阿部寛)の音楽隊への異動が伝えられた時に、上役が吹き出したのに騙されました。エモーショナルなコメディ風の物語だと思ったのです。
でも違った。叩き上げ刑事が行き着いた先の音楽隊で、嫌々ながらドラムの習得に身を委ねる。元々が一途な性格だから、子どもの頃の思い出を蘇らせたりしながら、覚束なくもドラマーの道を歩み出した。やがて恋も生まれてと思ったが、それはなかった。
と言う一本道の筋書きに、アポ電強盗事件が絡んだ物語。部署が変わっても捜査を忘れられない刑事魂の本気と健気な意志が、主犯確保に結実した物語でもあります。そしてもう一つ、父親としては未熟すぎる男の切なさも味わえます。
とは言っても「成瀬刑事」の人物設定や、コンプライアンス一本槍で成瀬を追いやる筋書きの単純さ、定期演奏会を使った囮作戦や、子供みたいな掌返しをした署長など、話の骨格は決して練り込まれてはいなかったと思います。
しかし月並みな言い方ながら、音楽隊のメンバーのごく自然な「等身大感」があり、音楽隊とアポ電強盗の二つのストーリーの合わせ技で、作品に綾が織り込まれた、そんな感じでした。
◉言わずとも溢れる心情
ところで阿部寛さんの演技は、ストーリーの盛り上がりに引きずられることなく、逆に演者としてのテンションは、次第に内側に静かに秘められていくところが、凄いなと思います。簡単には物語の先行きが見えてこない。
そして喜怒哀楽のどのシーンであっても、苦笑いとか諦めの笑いとか、何とはなしの可笑しみが含まれていると思います。
光石研さんも笑顔の中に重厚感をにじませた俳優ですが、あんな軽薄な役回りもやるんですね。小沢仁志さんは知能犯にして腕力もある、悪辣な主犯を演じてさすが。身近で暴れられたら絶対に嫌だなぁと言う妄想が生まれました。