「構成が練られたノンフィクション。だからこそラストはやるせない。」コレクティブ 国家の嘘 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
構成が練られたノンフィクション。だからこそラストはやるせない。
◯作品全体
ノンフィクションのドキュメンタリー映画だけど冗長に物事を映すのではなく、しっかりと構成が練られていると感じた。
発端はライブハウス火災から浮き彫りになった医療体制の不備。希釈された消毒液による感染症の重傷者や死者の増加、という構図は非常にわかりやすい。作品序盤の被写体は実際の被害者やその家族が多く、市民が一番悲惨な目に遭っていることを印象付ける。
こうした実被害はいわば「公」の、地上で発生する被害だ。それに対して悪の根源は地下に眠っており、公的機関が隠し続ける悪しき秩序が語られる。この加害と被害の関係性があまりにも救いようがなく、辛い。
スポーツ紙のスキャンダル記事では消毒液の希釈が病院や業者の私益へと繋がり、医療と政界の腐敗が露見する。冒頭で映される「明確な被害」と打って変わって、闇の中で絡み合った「複雑な加害」。前保険相や病院理事長といったわかりやすい悪役は登場するが、彼らだけを消毒したところで政治腐敗という感染症は収まらず、新たに過半数を獲得した野党や国内での移植手術を強硬的に訴える市長、移植手術を可能と話す病院からは、その悪魔的な感染の気配が残ったままだ。
正義感のある新保健相はマスコミや旧態依然とした勢力と対立するものの、停滞するルーマニアに正面から向き合う姿が印象的だ。絶望的な状況を切り開く、作品の起承転結の「転」にあたるキーパーソンだが、そう易々とハッピーエンドにならないのがノンフィクション映画の味というべきだろうか。既得権益を奪おうとする新保健相に味方する物は少なく、世論は必ずしも評価してくれない。一筋縄ではいかない現状の歯がゆさがフィクションとは異なる重苦しさを感じさせた。
ラスト、火災事故によって家族を亡くした人たちの墓参りのシーンは、突如無音とブラックアウトで終わる。空元気で希望の歌を歌う遺族を絶望へと叩き落とすような、容赦のないラストカット。「国家の嘘」が露見しても、根絶していないこの状況を如実に表す演出だ。地上での明確な苦しみと、地下での複雑で醜悪な腐敗。苦しさのコントラストが鈍く突き刺さる作品だった。
○カメラワークとか
・フォーカスの甘いカット、フォーカスがカット内で動くカットはドキュメンタリー感が強く出るけど、ちょっとステレオタイプな画面作りに見えてしまった。やむなく、意図的ではないにしろ。
◯その他
・マスコミの話を遮って聞きたいことだけガンガン被せてくるのは万国共通なのかな。前保健相は確かに質問をはぐらかしているけれど、その中身の無さよりも言いたいことだけ言いたいタイミングで言うマスコミの遮り方にイラっときた。
新保健相になぜ国内で移植手術を認可しないのか、と話を遮って詰め寄るマスコミは最悪だった。自分の主張だけを感情的に話して、相手に思案する時間すらくれない。そのくせ認可をしない理由を改めての記者会見で話すとなにも言わずにメモを取る。ずるいなあ。