「同じような正義の政治家は日本にもいるはずだ」コレクティブ 国家の嘘 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
同じような正義の政治家は日本にもいるはずだ
以前、中国人の知人と財布を拾ったときの行動について話したことがある。日本では大抵の人が警察に届けると言うと、中国では警察に渡す人などいない、拾った人のものになるか、警察官が自分のものにするかのどちらかだ、と言っていた。この話はいろいろな意味合いを含んでいて、必ずしも日本人の美徳や中国人の悪徳で済まされるものではないと思う。
日本には全国いたる所に交番があって、拾得物の届出が簡単にできる。日本人は、殆どの警察官は遵法精神に富んでいてきちんとした手続きをしてくれるものと信じている。日本人は他人の目を殊更に気にするから、拾得物を横領して得られる利益よりも、横領がバレて会社を馘になったり共同体から責められたりする不利益を重く見る。幼児の頃から義務教育を通じて、物を拾ったらすぐに届け出るように教え込まれているから、横領することに自動的に罪悪感を感じる。「悪銭身につかず」という諺もある。そもそも日本人は小心者だから拾得物を平気で横領することができない。
ちょっと考えてみただけで、日本人が拾った財布を警察に届け出る割合が高い(警察の発表では90%以上)理由がたくさん挙げられる。これらの理由が複合した結果、財布が持ち主に戻る割合が高くなったのだろう。倫理的に日本人が中国人より優れているわけではないと思う。現に話をした知人も、自分も日本に住んでいるから、拾った財布は警察に届けると言っていた。日本人も中国人も、同じ霊長目ヒト科ヒト属ヒトである。種が異なっているわけではない。環境と教育の差があるだけだ。
さて本作品はルーマニア映画である。ルーマニアの政治と医療が日本以上に崩壊していることを知って、まず驚いた。しかしルーマニア人が日本人よりも道徳的に劣っているとは思わない。小心者の日本人も、赤信号をみんなで渡るのは平気である。選挙にしてもアベシンゾウや石原慎太郎が勝ち続けた。根っこから腐敗しているのは日本も同じだ。
ただ、このような映画を製作する映画監督がいて、それをきちんと評価する人がいて、世界で上映するシステムがあることに救われる。そして作品に登場したような正義漢の保険大臣がいたことにも救われる。同じような正義の政治家は日本にもいるはずだ。
いまは単館での上映だが、こういう作品が多く作られて、シネコンで上映されるようになれば世界も変わるかもしれない。そうなればこういう作品も不必要になるかもしれないが、赤信号をみんなで渡りたがる人たちを根絶することはできないだろう。戦争映画がいつまでも製作され続けているように、こういう作品が不要になる時代は多分来ない。
それでも善意の政治家や役人たちが選ばれれば、社会システムと教育環境を改善していくことはできる。人類は少しずつではあるが、利己主義から脱して寛容さを獲得し、自由で平和な世の中を実現する方向に進めるかもしれない。
いまは単館での上映だが、こういう作品が多く作られて、シネコンで上映されるようになれば世界も変わるかもしれない。
に、同意します。
でも私は日本人がお財布を届ける理由を全てひっくるめて、そういう世の中で良かったと思います。