「少数派が押しつぶされていく」名もなき歌 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
少数派が押しつぶされていく
民族的、性的に少数派の人間や、貧しい者など、人が集団を形成したときに弱者に位置してしまう人々の無力感を描いた作品かなと思う。
富めるものはさらなる富を求めて弱者から奪う。マジョリティに属する者は自分と違う存在を排除しようと圧力をかける。
どちらも本当は、そんな事をしていいパワーは持っていないはずなのに、それをしてもいいと勘違いする。
スーパーヒーロー映画で「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉が出るが、弱者を蹂躙しようとする作中の姿の見えない者には大いなる力なんてない。ないにもかかわらずそれを行使しようとするならば、大いなる責任が伴うはずだが、もちろんそんな気付きはない。
虐げられる弱い人々がどうして黙って蹂躙されることを受け入れると考えられるのだろうか。
混迷の不安定な時代だからこそ先を考えない行動に出るのかもしれない。
地平線が見えるショットが多いのが印象的だ。カメラアングルが低いのだろうか。
いくつかのショットは明らかに意識して地平が入るように撮っていたと思うが、周りに建物がないシーンが多いせいかもしれない。
モノクロの映像なので、黒い地平と白い空にくっきりと分かれる。作中の出来事に対して暗くなりすぎない雰囲気で作っているように思えたが、割れた地と空は不思議な物悲しさを醸し出した。
高い娯楽性とは言えないけれど、アーティスティックな雰囲気はそれだけで中々良かった。
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