「設定は良いが、肝心な部分が雑過ぎる」オールド JohnJetDogさんの映画レビュー(感想・評価)
設定は良いが、肝心な部分が雑過ぎる
そのビーチは時間の流れが早い。
人々は知らないウチに歳をとり、死んでいく。
そしてその事に気付いた時には、もう戻れない。
基本の設定は凄く良いんです。
予告編でもワクワクさせられて、楽しみにしていました。
全体的な雰囲気もストーリーも、そしてラストも悪くないと思っていて、ある一点さえちゃんとしていればワンシチュエーション・スリラーの新たな傑作になり得たのではと思います。
その一点とは、物語の根幹となる【時間の流れが異なるビーチ】というシチュエーションの設定があまりに雑過ぎる事です。
いったいどんな考察や考証を経てストーリーを作ればこうなるのだろうかと不思議に思います。
以下に、自分がおかしいと思った部分を抜粋しておきます。
思い付いた順に書くので順不同です。
違うよ、そこはこういう事だよ、という部分がもしあればコメント欄にてお教えくださると嬉しいです。
◾️両親と子供の時間の流れがおかしい
物語の終盤で、子供達の両親二人が老衰と思われる症状で亡くなってしまいますが、その時の子供達の見た目年齢がどう見ても20歳前後なのはおかしいと思います。
物語のスタート時点で弟が7歳前後(うろ覚えです)、お姉ちゃんは11歳でした。
そしてその両親は、見た目的にも30代中盤であったと思われます。
その両親が目が見えなくなり耳が聞こえなくなりで老衰で亡くなるのですから、普通に考えればその時80過ぎにはなっていたのではないでしょうか。
つまりビーチに足を踏み入れた時点から40数年分は老化が進んだ事になり、その計算でいけば子供達の年齢も50歳前後になっていなければ計算が合いません。
人によって老化のスピードが違うといった設定は無かったと思いますので、ここはおかしいなと思って見ていました。
◾️死体が白骨化するのはおかしい
ビーチ内ではもの凄いスピードで時が進みますが、それは【物理的な時間が早く進んでいる】訳ではなく、あくまでも岩礁の物質の影響により【細胞分裂のスピードが上がって、成長(老化)が加速化している】
だけに過ぎません。
現に、作中では物質や食べ物はその影響を受けません。
細胞が生きていないからです。
にも関わらず、物語の中で人が死ぬと、もの凄い早さで分解が進み白骨化、ついには灰になってしまう描写があります。
人は死ねばただの肉塊です。
言い方は悪いですが、食べ物と同じです。
もう細胞分裂をせず、ただの物体になってしまった人が、このビーチでの怪現象の影響を受けるのはおかしいですよね。
また劇中では、『髪が伸びないのはそれ自体は生き物ではないから』という発言もありますが、にもかかわらず髪の毛ごと分解されてしまうのは製作陣自ら矛盾を産んでいる事にもなると思います。
◾️傷や骨折の治癒が早過ぎる
劇中で、ザックリとではありますが、ビーチでの時間の流れは30分につき1年分であるとされています。
これまたザックリと計算すると、30分(1800秒)で1年(365日)進むという事は、1分で約12日間、1秒換算だと0.2日(約5時間)程度時間が進むという計算になると思います。
劇中ではメスで切った傷や骨折の箇所がものの数秒で治ってしまう描写がありましたが、この計算でいくと傷痕は数十秒、骨折に至っては数分は待たなければ治らないはずだと思います。
腫瘍に関してはよく分かりませんが、傷や骨折はもっと治るのに時間がかかるはずで、劇中の表現はあまりにもおかしいというか、ストーリーを進める為のご都合主義のように感じてしまいました。
◾️身体と一緒に精神まで成長するのはおかしい
子供達が成長して大人の身体になるにつれ、何故か中身の精神まで成熟していく描写がありますが、精神とは日々の経験や学習の積み重ねの末に出来上がるものであり、身体が大人になったからといって中身まで大人になったかのような状態はおかしいと思います。
100歩譲って、大人になった男女が抱き合ううちに気持ちが昂り、セックスをしてしまった部分までは有り得るかも知れません。
本能であり3大欲求の一つでもあるので。
でも急に難しい言葉を使い始めたり、精神的に安定し始めたり、頭の回転が良くなるのは矛盾があります。
あの3〜4歳の女の子などは、身体は大人でも心は子供のままで喋り方も片言でなければおかしいのでは。
◾️バレずに治験者を集め続けるのは無理がある
上で言及したある一点の部分からは逸れてしまうのですが、本記事を書いてるウチに思った事です。
劇中では治験対象者を事前に絞ってピックアップし、旅行に来るように誘導し、来た時の交通の痕跡から自宅のパソコンの履歴まで全て消して足がつかないようにしているという描写がありましたが、旅行に行くとなれば当然親や親戚や友人にその事を詳しく話すかも知れませんし、場合によってはホテルに着くまで、あるいは着いてから先の様子も全部SNSで実況中継している可能性もあります。
楽しい旅行にご招待の体なので、旅行客が仮にそうしていたところで、それをやめさせる権限はホテル側には無いはずです。
ホテル内に一般客と治験対象者が混在しているのも本来はまずいですよね。
仲良くなった他の客に何を話すか分かりませんし、可能性的には低いものの、そこに元々の知り合いがいる可能性もあります。
その状態で一家が丸ごと行方不明になれば、当然騒ぎになりますよね。
そういう懸念がある中、今まで何の騒ぎも起こす事なくホテル側が治験を続けて来られたというのには、無理があると思います。
まぁ、結果的にそれがキッカケで今作は解決した訳で、そうなるべくしてなったなと。
細かく挙げればまだまだありますが、主に以上の事のような矛盾点が気になってしまい、物語に全然集中出来ませんでした。
素人でも思い付くこれらの問題点を何も解決させずにプロットを組んでしまった事に、驚きを禁じ得ません。
そこをきちんとクリアーさせた上で今回のストーリーを成立させる事は決して無理な事では無かったように思うので、その雑さは実に勿体ないなと感じました。
どんな映画でも、アクションでもヒューマンドラマでもコメディでもホラーでも、95%の真実の中に5%の嘘や非現実を紛れ込ませるくらいが丁度良いと、個人的には思っております。
例えどんなぶっ飛んだ内容でも、有り得ない世界観でも、基本的な部分、例えば人の行動や考え方、今作にも言えますが科学的な考証であったり歴史的な考証、そういった部分はちゃんと一本筋を通した上で、上にフィクションを被せて味付けするくらいでなければ映画は成立しないのではないでしょうか。
今作はその根幹の部分逸脱の幅が少し大きかったが故に、新しいシチュエーションスリラーの傑作誕生!のポジションに入りそびれてしまったように思います。
いつもの事ですが、大変長くなってしまい申し訳ありませんでした。
最後までお付き合いいただき、ありがとございます。