ビルド・ア・ガール : 映画評論・批評
2021年10月12日更新
2021年10月22日より新宿武蔵野ほかにてロードショー
共感度抜群で悩めるシックスティーンを好演!成長するって、やっぱり苦い。
ロンドンまで車で約2時間半、ウォルバーハンプトンには心奪われる男子もいなくて刺激もない。この街で暮らす16歳のジョアンナは、5ページの課題に33ページも費やすほど書くことが好きだ。
「ビルド・ア・ガール」は、弱冠15歳で作家デビュー、メロディメーカー誌で最年少ロック評論家、17歳でタイム紙のコラムニスト、TVでも活躍するキャトリン・モランの実体験を基にした同名小説を、彼女自身が脚本化。オアシス、blurもブレイク前夜、まだSNSもない1993年、ひとりの少女が音楽ライターを経験することでビルドアップされていく。
大手音楽紙に採用されたジョアンナはある秘策を練る。歳の差を跳ね飛ばす別人“ドリー・ワイルド”となって記事を書くのだ。兄から借りた9ポンド48ペンスを元手に、髪を赤く染め、黒のシルクハットとコスチュームを調達すると、物怖じせずにライヴ会場へと駆け込んでいく。
最先端の音楽シーンは刺激だらけ。しかも書ける。勢いづいたドリーに、ロック界のスター、ジョン・カイトの取材依頼が舞い込む。運命の男がいた。紛れもなく初恋。彼への想いを夢中に書いた彼女の原稿は、まさかの“愛のポエム”。当然原稿はボツになり、編集部出禁の窮地に立たされてしまう。
「読者が求めるすべてを蹴散すような記事」を書け。編集マンの助言に、初恋を胸に秘めた彼女は超辛口ライターに変貌、ダメ出し連発の辛辣な記事を書きまくる。
受けた。たちまち売れっ子になり、音楽が諦められない父、双子の育児に追われる義母、音楽同人誌を続ける兄との生活を支える一家の稼ぎ頭に。だが、朱に交われば赤くなる。特ダネ狙いの編集メンとプチセレブ気分を後押しする取り巻きに囲まれ、ドリーの暴走はもはや制御不能になっていく。
書くことが大好きな夢想家のジョアンナと音楽業界の売れっ子ドリー。まるでジキルとハイドのようなヒロインに、「レディ・バード」(2017)の級友役で注目され、ガリ勉女子が遊びに目覚める「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(2019)で八面六臂の大奮闘を見せたビーニー・フェルドスタイン。
今回も共感度抜群で悩めるシックスティーンを好演。愚痴ったり、悩みを打ち明けたり、女性監督が用意した寝室の“GODWALL”からあれこれとアドバイスを贈る“神のごとき存在”たちとのやりとりも楽しい。
“なにものも僕の世界を変えることはない” 上映が終わった後、ジョン・レノンの「アクロス・ザ・ユニバース」のフレーズがリフレインしていた。成長するって、やっぱり苦い。
(髙橋直樹)