英雄の証明のレビュー・感想・評価
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それぞれのちょっとした事情でややこしい事態に
2022年劇場鑑賞102本目。
借金が返せず投獄されている男の恋人が金貨の入ったカバンを拾ったので、それで借金を返そうとするが貸主が全額でないと受け取らないとゴネたばかりに金策をしている間に良心の呵責で落とし主に返す事に。その話が刑務所の人達に知られ、取材を受けて英雄と持ち上げられるが・・・という話。
まずこのイランの司法制度に驚きです。借金返せず投獄されたらますます働いてお金を稼げないので貸主もお金返って来ないのに、なんて非効率的な制度なんだろう、と思いました。その後に出てくる死刑囚がお金を払えば死刑をまぬがれるという話も驚きで、イランでは金持ちは人殺し放題らしいです。
自分が困っているのに拾ったお金を返したというのは確かにいい話ではあるのですが、日本だとニュースに取り上げられるレベルの話じゃないですよね。この映画で描きたかった事は善意を疑われる事への理不尽さに対するモヤモヤした感情を主人公と観客に抱かせたかったのだと思うのですが、日本人からみた司法制度自体の欠陥や、最初はネコババしようとした事実、貸主の融通のきかなさ、落とし主の特殊な事情、周りの人々の配慮のなさなど小さな綻びがいちいちトゲのようにひっかかって感情移入しづらかったです。
現代の地獄
横綱相撲
どつぼ
名誉と世間体の為に…
〝最善の策が有りそうなのに常に誤った選択をしてしまう映画〟の新たなマスターピース。
「原案」とかでクレジットしてちょっとお金も払っとけば、本人もファルハディ作品に名前が!と喜んだだろうしお互いに名誉も保たれただろうに、なんで変な念書なんか書かせるかね………あれ?
いやしかし実際の所、観ている間じゅうファルハディの例の盗作問題に対する対応のマズさばかり考えてしまって、現実が映画を侵食しているなぁと思わずには居られなかった。
なぜ作品で指摘している事を、自分も現実にやってしまうのだろうか?それも含めて非常に興味深い味わいに成っている。
全員の行動に一理有り(〝今まで悪い事ばかりやってた奴が一つだけ善行を行っただけで何故評価されるのか、それなら取り立てて善行はやらなくても悪い事を全くしない自分の方が偉い〟と言ってた元義理の父親の意見とか至極真っ当)、また同時に全員の行動に悪手も有って観ていて非常に混乱する。常に「この子の為に」とか「お前の為に」と言われ、実際利用されている吃音症の息子がただただ可哀想。
休暇で刑務所を出た主人公が、階段をズーーーーーーーーっと登って義理の兄に会いに行ったり、主人公の恋人が階段を降りて主人公に会いに来たりといった気の利いた演出や、最後の、釈放されて出て行きパートナーと一緒にバスに乗って去っていく男の姿を、建物の入り口で切り取ってずっと見せる所など良い画も多くて、ファルハディの作品の中では、個人的に今作が一番好きだし面白かったな。
ところで、何を伝えたいわけ‼️❓
気になったのはその法制度
人助けをすると素人がヒーローになることがある。ちょっと前にボランティアのおじさんが子どもを捜索中の子どもを見つけてヒーローになっていたことを思い出す。あの後しばらくはやりづらかっただろうな。
この映画では金貨の入ったバッグを返した男が描かれる。しかも返したのは借金で投獄されている囚人。一気に美談になるという流れだ。
その持ち上げ方も気持ち悪いが、ある事件をきっかけに評価がガラッと変わってしまう。ここで描かれるのはSNSの怖さや世間の評価の移り変わりではなく、人のことを信じられない側、人を貶めようとする側の行動だ。でも、主人公ラヒムは全く悪くないかというとそうでもない。悪人ではないのだがいろいろと間違えてしまうというアレだ。
なかなか面白かった映画なのだが、気になるのはイランの法制度。借金で投獄されたり、訴えた人が取り下げれば解除されたり、囚人なのに休暇が与えられ外出できたりする。さらにはお金をつめば死刑も免除されるみたいな描写もあった。この法制度、大丈夫なのか?
運が悪いというより、脇の甘さが問題ではないか???
久しぶりのイラン映画。刑期中に休暇が取れるとは不思議なシステムもあるものだ。運が悪いこともあるかもしれないが、とにかく主人公は脇が甘い。なのでこんなに色々な試練に出会うのではないか?中東の人達はとにかく面子を重んじるとは聞いていたが、この映画でもそれは良く理解できる。しかし設定を弄れば西側社会でもこういうことは起こりうることかもしれない。
作られた善意
遠慮がちに人の良さそうな笑みを浮かべるラヒム。恋人のファルコンデも姉のマリも義兄のホセインも彼を笑顔で迎え入れるが、実は彼はある罪に問われ投獄されている身で、一時的に保釈され彼らに会いに来たのだった。
彼は友人と商売を始めるために融資を受けたのだが、友人が金を持ち逃げしてしまい、その借金をラヒムの元妻の父親であるバーラムが肩代わりする羽目になってしまった。
バーラムはラヒムが借金を完済するまでは訴えを取り消さないと頑なに主張している。
そんな折り、ファルコンデは道で金貨の入った鞄を拾う。この金貨を換金すれば借金を返せるのではないかと彼女はラヒムに相談する。
これは神がラヒムに与えた救いなのか。
しかし金貨を換金しても借金の金額には届かない。
罪の意識からか、ラヒムは鞄と金貨を持ち主に返すことをファルコンデに提案する。
ラヒムは刑務所にいるため、鞄はマリに預けられるのだが、程なくして持ち主の女性が現れ、無事に金貨は彼女の元に戻る。
するとこれが美談としてメディアにも大きく取り上げられることになる。
服役中で借金がありながら金貨に手をつけることなく持ち主に返したラヒムの行為は多くの人から支持され、やがて囚人を救うためのチャリティ協会まで動かすことになる。
ラヒムの元に多額の寄付が集まってくるのだが、それでも借金完済には足りない。
チャリティ協会のメンバーもバーラムに訴えを取り下げるように説得するのだが、彼はやはり頑なに完済が条件であることを譲らない。
バーラムはラヒムは当然のことをしただけだと主張し、彼を英雄視する声に疑問を投げ掛ける。さらに彼はラヒムをペテン師呼ばわりし、自分が悪徳債権者であるかのような印象を持たれていることへの不満も口にする。
確かにバーラムの言葉にも一理あると感じる部分はあった。
アスガー・ファルハディ監督の映画は分かり合えない人間同士の痛ましい姿を描いたものがとても多い。
そして観客が感情移入するのを意図的に阻害しているようにも感じる。
断片的な情報しか入って来ないために、バーラムが頑なにラヒムを拒否し続ける理由も分からないし、ラヒムに対しても彼が本当に潔白なのかどうか疑念を抱いてしまう。
これは作られた美談なのではないかと。
SNSではラヒムを称える意見がある一方で、これは刑務所側がイメージアップを謀るための陰謀だと誹謗する意見もある。
そしてSNSの書き込みの影響で、ラヒムは仕事探しにも難航してしまう。
審議会は彼が本当に持ち主に鞄を返したのか、その証拠の提出を求める。
彼は持ち主の女性にコンタクトを取ろうとするが、彼女は意図的に自分の痕跡を残さないようにしていたらしく、どれだけ探しても彼女を見つけることが出来ない。
そこでラヒムはひとつ嘘をついてしまうのだが、これが後々に彼の立場を危うくする。
ラヒムはファルコンデに持ち主役を演じてもらうように依頼する。
ファルコンデは言われた通りに持ち主役として証言するが、審議会は証拠不十分としてラヒムの正当性を認めない。
審議会の元にはラヒムが不利になるようなデータが送られていたのだ。
ラヒムは全てバーラムが自分を陥れようとしているのだと短気を起こして、彼の元に押し掛け暴力を振るってしまう。
その様子は彼の元妻によって録画されていた。
ファルコンデが間に入って取りなそうとするのだが、それによってラヒムが嘘をついていたこともばれてしまう。
彼はチャリティ協会からの信用も失ってしまう。
手の平を返したように彼を責める刑務所所長の姿もおぞましかった。
刑務所側もチャリティ協会も、自分たちの信用を回復するためにラヒムにバーラムに謝罪するように強く求める。
しかし名誉を傷つけられたラヒムは謝罪することが出来ない。
彼にも非はあるはずなのに、おそらく彼は自分が何故このような目に合わなければならないのかという被害者意識が強くなってしまっている。
そうなるとプライドが邪魔をして、彼は決して謝ろうとはしない。
大人になれない愚かな男の姿もファルハディ監督の作品では良く目にする。
結果的に動画は拡散され、ラヒムはさらに逆境に立たされる。
彼を待ち受ける運命は悲劇的なものでしかないのだが、この映画はどこで落としどころをつけるのだろうかと気になった。
チャリティ協会は寄付金をラヒムのために使うことを断念する。
ファルコンデは必死に協会を説得するが、チャリティ協会が寄付金をある死刑囚を救うために使うことを話すと、ラヒムはすんなりとそれを受け入れる。
やはり彼には良心があったのだ。
ファルコンデはラヒムには内緒で、彼が死刑囚を救うために寄付金を譲ったことにして欲しいと協会の会長に頼む。
するとまたしてもそれが美談として取り上げられてしまう。
刑務所側も今度こそ信用を回復するために、ラヒムの行為を大々的に世間にアピールしようとする。
ラヒムを無条件に支え続けたのはファルコンデと、彼の息子であるシアヴァシュだ。
シアヴァシュは吃音症でうまく自分の考えを伝えられない。
刑務所側はそこに目を付け、たどたどしくも父親の正当性を訴えるシアヴァシュの映像を公開すれば、きっと世間の同情を買うことが出来ると主張する。
しかしラヒムは息子が晒し者になることを許さなかった。
自分のプライドのためにバーラムを殴ったラヒムの行為は到底許されるものではないと思ったが、息子の名誉を守るために食い下がる彼の姿には心を打たれるものがあった。
このあたりの観客の心を揺さぶる展開は見事だと思った。
結果的にラヒムにとっては刑務所から抜け出せない悲劇的な結末になってしまうのだが、彼が最後に下した決断には救われる部分があった。
刑務所から仮出所するラヒムの姿で始まり、刑務所に戻るラヒムの姿で終わる映画の構図も巧みだと思った。
情報に踊らされる人々の愚かさと、SNSを使えば簡単に印象操作が出来てしまうという現代的な恐ろしさを感じさせる映画でもあった。
主人公側に過度に肩入れせず公平な描写
いつもの映画館で
たまったポイントでロハ
開始時刻に合わせて仕事を1時間早退した
楽しみにしていたのだが
当日の仕事での出来事も影響してヘビーな気分で終始
とにかく前に進むために何でもやる主人公も好感がもてる
やり方は間違っていたが
主人公だけでなく
登場人物それぞれの行動規準が理解・想像できる秀作
・無条件に弟を信じる姉とその家族
・弱者の目線で金を集める慈善団体の代表
・吃音の子どもを利用する刑務所の幹部
債権者の目線が一番冷静で常識的な感じだ
孫の訴えの声を直接聞いて心を動かすところなどに共感
主人公側に過度に肩入れせず公平な描写
主人公が刑務所の幹部に最後にたてついたところが
この映画の救いなのかと思う
ラストシーンの捉え方は人それぞれだろう
別離 セールスマン
監督の過去作も観てみようと思えた
ずっと、ハラハラ、イライラしながら
試練か奇跡か
借金を返せず投獄されていた主人公。そんな中、婚約者が金貨を拾ったが、返済には充てず、ちゃんと落とし主(・・・!?)に返したことから、「正直者の囚人」としてもてはやされるが・・・といった物語。
最近見る機会の増えた気がするイラン映画。
まず、借金が返せないと投獄、って制度があることに驚き。
金貨を手に入れ、一度は返済を考えるものの、良心の呵責の末落とし主を探すことに。
金貨17枚が日本円だとどれくらいの価値かわからないけど、やっぱり囚人という身分と金額の大きさがモノを言うんですかね。落とし物を横取りしないなんて当たり前のことなんだけど、ラヒムはまさに英雄扱い。
そんなラヒムだけではなく、彼を取り巻く人々の動きも考えもの。
貸主のバーラムが印象的。確かに嫌~なヤツだけど、ラヒムが英雄でバーラムが悪者って図式は確かになぁ・・・って感じも。寄付者さんたちは善人なのだろうけど、よくよく考えりゃ落とし物を届けただけのラヒムと、満足に返金されないバーラムに対する目線はもうちょっと冷静になるべきかも。
また、この話を美談として刑務所のイメージアップを図る所長たち。見事なまでに手のひらをポンポンと返しまくる姿はもはや滑稽。シアヴァシュの件は許せませんな。
あとはタクシー運転手さん。味方してくれるのは嬉しいけど、あそこまで出しゃばって喋られると逆に怪しすぎでしょw下手くそかッw
それと、本筋じゃないけど、「殺人だから膨大な金額が必要」・・・って。
仮に金が集まれば許されるの!?だとしたら超大富豪であれば・・・なんて恐ろしい事を考えてしまった。
全体を通し、ツッコミ所も多いし、ラヒムも嘘つきだから「英雄」ってなんぞや?と思ったけど、それ以上に彼を取り巻く者達の動きやコロコロ変わる対応に深く考えさせられた作品だった。
ここでも、被害を被るのは罪の無い子供たちか。。
とにもかくにも この邦題のダサさよ…
正しさとは何か
主人公のラヒムは、根が真面目で誰からも嫌われないような人物です。しかし、周りの意見や状況に流されやすく、やや主体性に欠ける人でもあります。そもそも服役している現状も、そんな彼を見ていると意外なことではありません。
良いことも悪いこともテンポよく進む展開は、ラヒム自身が「なぜ今こんな状況に」と戸惑うほど。「トントン拍子で進んでいる」と思っていた状況が、その数時間後には「取り返しのつかない」ことになっています。
事のつじつまが合わなくなるたびに、ついつい取り繕うための「流された言動」や「小さなウソ」を重ねてしまうのですが、それぞれの言動は観ている我々の側にも覚えがあったり、同情的に感じることであり、結果として起きる状況はその積み重ねです。そして、鍵となるところでのラヒムの決断は正しい選択であるため、けして彼を責める気にはなれません。
或いは、だからと言ってラヒム以外の人物たちについても絶対的に悪意ある人間はいません。みな、その立場になれば理解できるようなことばかりです。
そのため、結果的には観ている側の我々自身が「正しさとは何か」を考えさせられる内容であり、この点は他のファルハディー監督作品にも共通しています。
同監督の作品は『彼女が消えた浜辺(10)』以降全て観ていますが、今回も裏切らず面白い作品となっています。
ちょっと嘘を言っただけで!
イランの映画
主人公は、借金を返せなくなり服役。
休暇があるんだね。
彼女が拾ったバッグに金貨があり
借金返済を、やっぱり返そうとなり
波乱が巻き起こる。
では
貰っといたら良かった?
人間の心理がよくわかる
なかなか
うーんと考える作品です。
英雄(not)pay
イランというと、マスコミの報道に接していると“イラン核合意”とか“親イラン武装組織”など剣呑なイメージしか入って来ないのだが、このファルハディ監督やアッバス・キアロスタミの映画を見ていると、市井の人々の生活や喜怒哀楽はぐっと近しいものに感じられる。そういう意味で映画や文学などの効用は計り知れない。
それにしても、この監督の映画はスカッとしない展開が多い。おそらくそれこそが評価されている点なのだとは思うが。ミステリー要素が加味されているのでつい惹かれて見てしまうが、快刀乱麻を断つ解決には導いてくれない。主人公を巡って毀誉褒貶が揺れ動く中、観客は第三者として画面越しにずっとその行動を見ているので、どうにも不誠実で信頼できない人物なのは明らかに思える。この主人公にどう寄り添えばいいのかわからないのだ。
イスラム圏の人は、男性は皆髭を生やしているし、女性はチャドルやニカブを着ているので、識別が難しい。私は当初、金貨を取りに来たのは主人公の恋人かと思っていた。
英雄って…
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