「独創的な世界観をラストまで貫徹した凄さ」TITANE チタン ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
独創的な世界観をラストまで貫徹した凄さ
車に異常な愛着を持つ女性が辿る戦慄のサスペンススリラー。
機械と人間の融合という意味では塚本晋也監督の「鉄男 TETSUO」を連想させる。また、車をモティーフにした異常性愛という意味ではD・クローネンバーグの「クラッシュ」の要素も見受けられる。まるで意志を持ったかのように展示車がアレクシアを犯すシーンにはJ・カーペンターの「クリスティーン」のような恐ろしさも感じられた。おそらく意図的な拝借ではないかと思うのだが、いずれにせよこの手のジャンル映画好きな自分にとっては、こうしたオマージュも含め、本作は中々楽しめる作品だった。
そして、ただのオマージュ映画に堕していないところも特筆すべき点である。物語後半から本作ならではのオリジナリティの要素が強く打ち出されていくことで、唯一無二の作品となっている。それは昨今の潮流とも言える多様性の肯定である。純粋にジャンル映画を楽しみたい人にとっては賛否あるかもしれないが、個人的にはそこに見応えを感じた。
監督、脚本は「RAW 少女のめざめ」で鮮烈なデビューを飾った新鋭ジュリア・デュクルノー。
序盤から急展開の連続でグイグイと惹きつけられた。どうしてこうなった?という疑問に対する答えがないまま話がどんどん進むので、人によってはこの時点で乗れない人もいるかもしれないが、個人的には先の展開の読めなさもあってかなりスリリングに観進めることが出来た。
また、要所のバイオレンス描写が痛々しく撮られているのもこの監督らしい。中には目を覆いたくなるようなシーンもあった。前作でも感じたことだが、明らかに監督の特異な性癖から来ているものと思われる。ゴア描写を売りにしたホラー映画とはまた違った生理的不快感が感じられた。
ただ、映画を観終わってみると、脚本全体の作りは前作「RAW」に比べるとやや粗いという感じがした。論理性に欠ける部分があり今一つスッキリとしない。
例えば、アレクシアがどうして殺人を犯すようになったのか?その経緯がまったく語られていない。ただのサイコパスと安易に片付けられない問題であり、そこは観る方としてはどうしても気になってしまう。
アレクシアが車に異常な愛着を持つに至った経緯も明確に説明されていない。おそらく幼少時代の自動車事故が原因でそうなったと思われるが、事故を起こす前から彼女はエンジン音を口ずさんでいた。だとすると、生来的なものなのかもしれない。これも今一つ判然としなかった。
父親との冷え切った関係の原因についても明確に描かれていないので想像するしかない。映画後半の展開を考えると、ひょっとしたら児童虐待的な行為が日常的に行われていた可能性も考えられる。
こうした不明瞭な点が幾つもあり、今回の脚本は個人的には余り感心しなかった。敢えてドラマに不条理性をもたらせるべくそうしている節も感じられるが、少なくとも普通の観客が観たらサッパリ分からないということになりそうである。
もっとも、後半に入ってくると徐々にドラマに芯が立ち始めていくので、そのあたりから大分理解しやすくなってくる。暴力性に溢れた前半からは想像もつかないような抒情性も見せつけ、このギャップには良い意味で期待を裏切られた。終盤にかけてテーマも上手く醸造していたと思う。
キャストではアレクシアを演じた女優のインパクトが際立っていた。前作「RAW」のヒロインもそうだったが、今回も演技経験のない新人というから驚きである。