レッド・ロケットのレビュー・感想・評価
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どんな人もユーモアで救い上げる
ヒューマントラストシネマ渋谷でショーン・ベイカー監督のオンライントークショーの回に参加。 質疑応答があると聞いていたので、昨晩から徹夜(嘘)で考えてきた質問を聞いてもらえるように、頑張って手を上げて、当ててもらいました!! 私の質問: 「ショーン・ベイカー監督の作品には前回の「フロリダ・プロジェクト」では近くにディズニーワールドがあり、本作では大きな工場が画面にずっと映っています。そういった大きな世界があってその片隅に暮らしている小さな人達という構図が感じられるのですが、そういったことは何か意識されていますか?」 ショーン・ベイカー監督のご回答: 「もちろんそれは意図的です。でもその意味するところや解釈は皆さんに自由にしていただきたいと思います。作り手である 僕が細かくお話しするのは重要ではないと思っていますね。自分自身の政治的な思いを皆さんに伝えるよりは、皆さん自身の体験 を通して、この映画を感じて参加していただくというアートの形である方がいいなと思っています。とはいえ、もちろん言いたいことや提 示していることはあります。それは我々がいかに資本主義社会で生きているかということで、平均的な人々は大企業の陰に生きてい るのだということです。それとともに、僕は物語の舞台を具体的にすることが好きなんです。ロケーションもキャラクターの一つとして考え ています。今回はテキサスシティという、360度カメラをどこに向けても製油所に囲まれているような場所が舞台です。視覚的に非常 に興味をそそられて、絶対にここで撮りたいと思いました。」とのお話しをいただしました! (通訳の方すごかった。スタッフの方も本当にありがとうざいます。とても貴重な体験でした。) 監督が映画館で声を掛けて本作が映画初デビューというストロベリー役のスザンナ・サンのチャーミングさにおじさん達は全員ノックアウト笑 どうしようない奴なんだけど、どこか憎めない主人公のマイキーを演じるサイモン・レックスも完全フルヌードになるという体当たりの演技でめちゃくちゃ良かった。 本当に人の浅はかさと愚かさと妬ましさを全て兼ね備える主人公。会う人会う人に嘘をついて、自分のことを棚に上げて他人をディスったり、本当に最悪なやつです!笑 最悪な奴なんですが、無駄に良い奴っぽいところもあって、最後も黙って出て行けばいいものを「オレ達ケンカとかしたり色々あったけど、良かったよな?今まで世話になった。明日出て行くよ」と言ったばかりに街のダメな奴全員集合しちゃって裸で追い出されてっていう もう本当にバカなんだから!と叱りたくなる主人公。 いやー笑いました。 元気になる映画です。この残酷な社会構造を感じさせながら、非常にリアリティのある人間描写は監督自身のキャスティングと演出の成せる技だと思うし、どんな人にも愛情ある視点を向ける監督の優しさに溢れています。人間讃歌です。 今年ベスト!!
変とまともが合わさった登場人物
「まとも」と「変」の境界線はあるかも知れないけれど曖昧だ。 煙草吸い過ぎ、マリワナ売る、吸う、買う、暴力。恰好もヘアスタイルも服もぐちゃぐちゃ、太ってる、すごく痩せてる、ドーナツを沢山嬉々として食べる。家族の結束が強い、なんとなく或いはとても貧しい、石油が出た地域はちょっと豊か。時代はまさにトランプ vs. ヒラリーによる大統領選挙運動中。テレビ画面に映し出されているのはトランプだけ、この地域はトランプ支持だろう。 帰ってきたマイキーに、家族、友だち、隣人皆が尋ねる:「なぜここに戻ってきた?」住んでる人もそこに住んでるの嫌だったし、マイキーの出戻りによって、日々の生活にうんざりしてる気持ちに蓋してたことに気づかされてしまったし。 マイキーはハンサム、笑顔がいい。砂ぼこりの町を自転車で移動して(子どもっぽい)、高校生に一目惚れして(子どもっぽい)ジワジワと食指を伸ばす(大人の男の嫌らしさ)元・ポルノ俳優。 生まれ故郷はあんな場所なんだ。工場が沢山、煙突から色んな色の煙がいっぱい。そんな背景をバックにしたマイキーの自転車移動映像はかっこいいし、騒音がすごくて話が聞こえないのもリアルだった。そんな土地から離れてどこか別のところに行きたくてもできない。親がいる、子どもがいる、どこかに行って働く具体的技術も知識も移動の為のお金もなければ気持ちも失せている。 埃っぽいローマ郊外が舞台の映画「アッカトーネ」(パゾリーニ)を思い出した。「アッカトーネ」では戦後のイタリアが経済復興に向かう中、ローマ近郊でヒモ男が女を売春婦にする底辺社会が描かれている。「レッド・ロケット」では夢も豊さもとうに消えて取り残された工業地帯。マイキーもヒモ男だが根拠ない自信と行動力と笑顔はある。それで女たちにボコボコにされる、自業自得。 予備知識ゼロでショーン・ベイカー監督の映画を初めて見た。とても気になるので他の作品も見たいとすごく思った。
飽きずに観られた
『フロリダ・プロジェクト』のショーン・ベイカー監督の最新作。 うん、やっぱり面白い。 若干、長く感じたが、ずっと飽きずに観られた。 追いかけたい監督です。 前作然り、今作も 絶対どこかにいると思えるような 登場人物の造形がうまい。 行ったこともないのだけど、 アメリカのテキサスというところに ああいう母娘がいると本当に思わせられる。 マイキーもずるいくらいに憎めない だけど、時折スマートに見えたり。 長くロスにいた分、田舎町に来ると どこかカリスマ性を帯びて見えるのよな…。 それで周りの人を虜にさせ、 そして不幸にしていくのです…。 レクシーのよれた感じとか、 人生諦めてるあの感じとか、 もうリアルすぎてさ〜。 ロイも絶対どこかにいるでしょ…。 そんで誰かの罪被って謝罪してるでしょ…。 もうさ、 ストロベリーもいつかレクシーになる未来しか見えないしさ。 マイキーはマジでやばい奴ですよ。 第二のレクシー製造機ですよ…。 全体的にふざけたジョークが散りばめられてるから気づかないようになってるけど、本当にシリアスでシビアな現実の連続ですよ、 そして劇場から出た後も、 どこかにいるレクシーのことを想うのです…。
ストイックさに痺れる
これほどまでに最低で最悪な主人公が、かつていただろうか?笑 人気ポルノ男優という経歴も、どれだけすごいのか怪しいうえに、特化したスキルや技術が必要な職業とはいえ、女優ありきの添え物感が拭えない。 とにかく口八丁手八丁で周りの人を利用していく最低男ですが ユーモラスな演出が見事で、チャーミングで憎めない部分にほだされてしまう説得力があります。 喜びが満ち溢れるシーンでは、不覚にも可愛いと感じてしまった。 なんだろう、このモヤモヤは。 人が純粋に喜ぶ姿は素晴らしい。けど喜びの理由が最低で最悪なんよね。 では、最低で最悪な彼の「低」とは何か? そして「悪」とは何か? どん底の主人公が最後に向かった町は、高い煙突から炎と煙が立ちのぼる工業地帯。 住人たちも、やたらタバコに火をつけ煙を吐く。 自分が生きることに精一杯で周りが見えていないから、その煙が大気を汚染し、副流煙が側にいる人に害を及ぼすことに気づける余裕が無い。 利用するか利用されるか?ギリギリの状態で生きているのだ。 主人公もその1人で、再起をかけて出直したくても新たなチャンスは与えられず、結局は過去と同じことの繰り返し。負のスパイラルから抜け出せないでいる。 観客はこれまでのドラマのセオリーに何度も裏切られます。 悪は成敗されるはず 悪は報いを受けるはず 悪は改心するはず もし悪を正当化するにしてもポリシーが必要ですが、それすら与えられません。 だって、そもそも悪ではないから。 人間の生き方に「悪」は無い たとえ手段を間違うことがあったとしても 生きようとすること自体は決して悪ではない 誤解を恐れずメッセージを伝え切る監督のストイックさに痺れました。 彼にセオリーを当てはめたとたん、彼のこれまでの生き方を否定することになってしまうから、彼は最後まで最低で最悪の男のままなのです。 これまでもショーン・ベイカー監督は偏見や貧困の中で生きる人々の喜びや悲しみを絶妙なバランスで描いてきました。 ユーモアには生きる為の力強さを ファンタジーには生きる為の希望を感じはしますが、それらが逆に悲しくもある。 でも、決して寄り添って勇気づけたり美談にして憐れんだりはしない。 むしろ、懸命に生きる人に向かってそんな感情は失礼だと言わんがばかりに。 かといって俯瞰で捉えた人間賛歌ほど遠ざかっていないのは、彼らが苦しむ原因が明らかで、彼らの未来を閉ざしている憎むべき悪は、私たちの中にある偏見に他ならないからだと感じました。 この企画を支持できるなんて、やっぱりA24ってすごいな。 とにかく一筋縄ではいかない登場人物たちがいちいち魅力的。 なかでも、元締めマザーの娘が気になりました。 めちゃくちゃ主人公にキツくあたるけど、意識している裏返しに見えて、勝手にキュンキュンしちゃいました。 「見る人を選ぶ映画」と呼ばないで。 思い切ってダイブしてほしい。
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