「そこまで興味を失える心境とは」ニトラム NITRAM つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
そこまで興味を失える心境とは
何かの作品の監督が言っていた。実際に起こったことは分からないが、少し調べれば真実は分かるし、観た人に知ってもらうことが大切だと。
やはり実際の事件を元にした作品で、詳しい内容は脚色されているものだった。
この作品についても似たようなことが言えるのではないかと思う。肝心なのは事件の存在とオーストラリアにおける銃の規制についてなのだから。
つまり、内容が正しいかどうかなどどうでもいいのである。なぜなら、私は鑑賞後にまんまと事件について調べてしまったから。
主人公の境遇について脚色されていると分かった上でも、映画として中々興味深いと思える点がある。それは主人公の母親だ。
彼女は主人公に対して過剰に冷たい。自分とは無関係の知らない人扱いに見える。あまりの冷たさに本当の母親ではなく継母か何かかと思っていたくらい。
しかし実際は血の繋がった母と息子であったのだ。
確かに主人公には問題行動もあり、知能障害で、優秀とは言い難い。それでも、全くといっていいほど愛情を注がない姿は異様だ。
主人公とヘレンの関係は、母親の愛情を求めたものに見えた。明らかに主人公には母親からの愛情が足りていなかったから。
これが最初から母親がいなかったのなら話は違ったかもしれない。存在しているのに存在していないかのような関係が悪影響を与えている気がした。
そして、自分に愛情を注ぎ支えてくれる父と疑似母の二人を失った主人公の心境を推しはかるのは難しい。なぜならば、主人公にはその2人しかまともに向き合ってくれる人がいなかったのだから。
もちろん、だからといって事件を起こしたことを擁護できるわけではない。
幼少期に花火で火傷を負い、それでも恐れは感じなかった主人公。彼が恐れていたことは自分が身体的に傷ついてしまうことではなく、一人になってしまうことだったのかもしれない。
だからこそ、他人よりも冷たく見える母親の存在が不気味で興味深く思える。母親のちょっとした支えだけで主人公は全く違う人物になれただろうから。
エンディング、事件のニュースが流れている中で、興味がない、自分とは関係ないと言わんばかりに、外で煙草を吸う母親の姿は、とても恐ろしいものに見えた。
彼女にとっては、最初からずっと主人公がモンスターに見えていたのかもしれない。