「じりじりと緊迫感に包まれて」ニトラム NITRAM mittyさんの映画レビュー(感想・評価)
じりじりと緊迫感に包まれて
主人公を演じた人、うまいですねえ。肉がだぶついた大きな子供。いつ、どんなことするかわからない感じでヒヤヒヤ。でも、時折見せる優しさにちょっとほっとしたり。
1996年、実際にオーストラリアのタスマニア島で起こった銃乱射事件がベースになっている、というのは映画を見てからわかったのですが、残忍な事件そのものを描いた映画ではありません。
主人公マーチン(二トラム)の事件に至るまでの日常生活と心理描写が繊細に語られていき、観る人に<想像させてしまう>映画といってもいいかもしれません。エンディングでは銃規制のことがテロップで淡々と流れます。しかし、「銃規制」という社会問題だけを扱ったものではなく、やはり、主人公の周囲の環境やら持って生まれた性質など、いろんなものをイヤでも考えさせられて、緊張感に飲まれながらラストへと導かれていきます。
親の育て方が悪かったか?
私にはそうは見えませんでした。オープニングで花火で火傷をしたところをインタビューされる、小学生?のときの主人公が登場するところからして、幼少の時から、両親は苦悩の連続だったと思います。母親はクールで威圧的な感じはしますが、深い葛藤もあったでしょうに。父親だって自分のこと以上にマーチンのことが気がかりで、母親が追い詰める分、優しく(甘く)接するしかなかったでしょうに。
若くはない女性ヘレン、存在感がすごくミステリアス感たっぷり。ヘレンがマーチンのことを「おもしろいし、心がやさしい」(という表現だったかな?)と認めているので、マーチンも素直でうれしそう。マーチンがパンツ一丁でヘレンのベッドに飛び込んで、はしゃぐシーンが印象的。マーチンにとって、一時の心のオアシスだったのかも。
もちろん、銃乱射したマーチンは悪いのですが、誰が悪い、あれがいけなかった、ああすればよかった、などと、答えは出ないですね。それをうまく感じさせてくれる映画です。哀しさ、虚しさ、やりきれなさをたっぷり感じてしまいますが。
今晩は
主人公を演じた、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズを初めて劇場で観たのは「バリー・シール/アメリカをはめた男」のジャンキー役でした。”誰だこれ!”と思っていたら、「ゲット・アウト」で怪しき屋敷の長男を演じ、更に「スリー・ビルボード」での胡散臭い不動産屋、「親切なロシア料理店」での変わってはいるが心優しき男、「デッド・ドント・ダイ」そして、珍しく(でもやはり変わっている砲弾が飛び交う中、懸命に仲間を助けた男を演じた)「アウト・ポスト」
私が好きな作品にはほぼ、変な役で出演していた彼の才能が、一気に認められた映画でしたね。では。返信不要ですよ。