「もう(花)火で遊ばない?」ニトラム NITRAM とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
もう(花)火で遊ばない?
冷たい社会の抱える様々な問題点を浮き彫りにしながら、しっかりと丁寧な描写で疎外感や劣等感、負の感情を積み上げていく。変に脚色されたり、作品自体が過多になることなく、ものすごくパワフルに掴まれるドラマ。自分をおかしいと思わざるを得ない環境を作った親や周囲からすれば、あるいは傍から見れば一見支離滅裂に映る(ような)ことも、本作を見ればなんだか少し解ってくるよう。拒絶されてバカにされて、見返したくて一目置かれたくて、あるいは人の輪に入りたい、認められたいと思って。嘘はつかない。
ジャスティン・カーゼル監督と(オーストラリアの)実際の殺人事件。一方は連続で、もう一方は無差別。彼の出世作『スノータウン』の方は主人公の少年を導くヤバい男の直接的な影響という存在が大きかったので、それと本作では同じにはできないけど、陰鬱な空気や何処かドキュメンタリータッチな演出然りやはり通ずる部分もあるだろう。そして何より、恐らく体も増量などいわゆるだらしなくしているであろう、"普通"になれないケイレブ・ランドリー・ジョーンズの熱演が見る者を強烈に引っ張る。今までも大作というより様々な小規模かつ良質インディー(アート)形の助演というイメージだった彼が体を張って周りに打ち解け馴染むことの困難大変さを体現するよう。ウスノロやニブい、知恵遅れなどと蔑称/差別用語で形容され、呼ばれ罵られて。ニトラムとは呼ばせない、呼ばれたくない。みんな絶望的な気持ちで毎日を生きてる。だから、こうすべきなんだ。
そんな彼を真っ直ぐあるがままに受け止める女性との出会い。自動車販売店の常連となっているのも、車自体が別に欲しいわけでなく、その購入の過程でのコミュニーケーションが目的。人々の抱える孤独。けど、その出会いによって奇しくも得た大金や場所が、軍資金となり銃の練習場所となる。お金のために後から来た人に勝手に売っている不動産、いとも簡単に凶器を買えてしまう銃社会。凶行/犯行に至るまでの瞬間、なにが彼を"そうさせたのか"?…という表現にしてしまうと語弊が大いにあるが、間違ってももちろん起こした犯罪を擁護するわけではなく、その背景にあった要因を紐解いていく。なぜこれだけ人々が亡くなっても、銃乱射事件は無くならないのか?犯行理由/原因は謎のまま…か?根本から無くすためにはどうすればいいのかということを今一度考える契機となるだろう。そして無音エンドロールまで圧巻の余韻…うむ。
芝刈り
チッチ、チッチ
勝手に関連作品『エレファント』『タロウのバカ』
P.S. 公開当時、映画館で絶対に見ようと思いながら、同時に絶対気分沈むだろうな…と思って行き損なっていた作品