「オーディアールの味変」パリ13区 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
オーディアールの味変
近年の映画でよく扱われるテーマの一つに希薄な人間関係がある。インターネットの普及による現象だと推測できる。
親密になれない関係性、ある時ふと気付く孤独、刹那的に生きていることへの絶望と気付き、ズレ、そんなものを扱った作品で、洋邦問わずよく見るようになった。
この作品もそんな新たなカテゴリの一作だ。
ジャック・オーディアール監督が好きで彼の作品は多く観ている。本作もまたオーディアール監督だから観たわけだが、過去の作品群と比べて少々内容に違いを感じた。演出面においてはオーディアール監督らしさは存在していて満足のいくものだったが。
着想を得た原作があるとはいえ「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマが脚本に名を連ねている影響が大きかったのかなと思う。
オーディアール監督は割と普遍的な感情を扱うのに対して、セリーヌ・シアマは自身が女性の同性愛者であることもあってか、同性愛や女性の自立とか、虐げられている女性とか、フェミニズムよりの作風の人だ。
ある意味で、時代とオーディアールとシアマがうまく融合したのかもしれないし、オーディアール監督の味変としても良かったのかもしれない。
しかし、群像とまではいかなくとも、軸が多様で焦点がぼやけたように感じたのはマイナスか。
それでも、軸の多様さも含めて実に現代的で興味深い作品だったのも確かだ。
オーディアール監督が好きだからかもしれないが、面白かった。
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