「悪夢的おとぎ話の中で歌い踊り堕ちる、悪魔と女神と天使」アネット 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
悪夢的おとぎ話の中で歌い踊り堕ちる、悪魔と女神と天使
人気のスタンダップコメディアンと世界的オペラ歌手の恋。
やがて二人の間に娘も生まれ…。
ミュージカルで描き、さぞかしハッピーに満ちた作品…ではない。
監督はレオス・カラックス。寡黙家ながら斬新で鮮烈な作品を手掛けてきた鬼才。甘っちょろい作品になる筈ない。
ジャンル的には“ダーク・ファンタジー風おとぎ話”。恐ろしくもある物語が、カラックスならではの独特の世界観と映像美の中に展開していく。
話の原案はバンド“スパークス”のストーリー仕立てのアルバムから。
一応ストーリーはあるが、それを追い掛けると、とんでもない目に遭う。常人には理解不能。
ストーリー云々より、設定や描写など、何かしら意味深さを含んでいるかのようなのが印象的。
人気のスタンダップコメディアンのヘンリー。まず、このキャラを好きになれるか、否か。
陽気で面白い/楽しいコメディアンではない。ステージに上がるや否や、毒を吐きまくり。ブラックジョークっていうのではなく、とにかく攻撃的で挑発的。日本のお笑い界にリアルに居たら、何をするにも炎上し、“嫌いなタレント1位”は殿堂入りだろう。
一方のオペラ歌手のアン。美しく、その歌声は聞く人全てを虜にし、女神のよう。
そんな二人が恋に落ちた。言わば、悪魔が女神に恋をした。
全く不釣り合い。メディアの格好のネタ。
見る我々も察してしまう。この愛は、破滅しかないと…。
娘も生まれ、幸せの絶頂のように思えるが、ヘンリーの黒い噂は絶えない。他に女性の影、過去に関係あった多くの女性から訴え…。
夫婦関係もぎくしゃく。
家族でヨット旅行へ。嵐に見舞われた海が、悲劇的な展開を暗示させる…。
酔ったヘンリーは強引にアンと踊る。その時…
波に飲まれ、アンは帰らぬ人に…。
これは事故なのか…? それとも…?
父一人娘一人になった訳だが、まだ幼い娘に母親譲りの歌の才が…。
タイトルの“アネット”とは、娘の名前。
この娘が本作最大の驚き。ヘンリーもアンも当然ながら役者が演じているが、アネットは何とマリオット。
これは何を意味するのか…?
アネットは生まれた時から世間の注目の的。
父ヘンリーによって、ショーに出演させられる。
我々世間や父親の“操り人形”。
どんどんアルコールに溺れていくヘンリー。己の惨めさ、あの“事故”での妻への自責、そして新たな罪を犯し…。
アネットのラストショー。アネットの口から衝撃の発言が…。
ラストのあるシーン。
この時、マリオットだったアネットが人間の姿に。
父から娘へ愛を乞うが、娘は…。
悪魔のような男は何を求めたのか…?
女神(=妻)や天使(=娘)、生身の“人間”への愛か、虚遇への幻か。
アダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールの熱演。
初の英語作品で、全編ほぼ歌の意欲作。
正直、レオス・カラックスの作品は不得意だ。いつぞやのレビューでも書いたが、鬼才の世界は凡人には理解出来ない。
本作もほとんど理解出来ていないだろう。
しかしこれまで見た中でも、少なからず惹き付けられるものとインパクトがあった。