「人形は人間より雄弁」アネット 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
人形は人間より雄弁
表題となっているアネットは主人公夫婦の間に生まれる子供の名前だが、この役に人形を当てたのが大正解だった。人間はかなり古い時代から、人形を作ってそこに様々な意味を仮託してきた。不滅の肉体だったり、理想の身体だったり、聖性や呪いの象徴としても扱うこともあった。そのように意味付けされた人形の存在感は生身の人間を超えている。人形には表情がないから、人形を見る私たちはそこに自分の見たい感情を投影してしまう。そのせいで、人形は時に人間以上に雄弁な存在として振舞い得る。本作はまさに人形をそのような、人々の感情や理想を投影する偶像(アイドル)として用いている。
ミュージカルを選択したにもすごく良かった。リアリズムでいかなくて済むので、人形がいても違和感がない。超現実的な空間を見事に作り上げて現代的神話を創出している。カラックス久々の特大ホームラン。今年を代表する1本。
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