「癖は強いが当たればハマる冒険的ロックオペラ」アネット ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
癖は強いが当たればハマる冒険的ロックオペラ
予告映像と、オープニングがメタ的である、子役(?)が人形という事前情報で、自分がついていける内容なのかかなり心配になったが、アダム・ドライバー見たさで覚悟して観に行った。
コレが意外と、大丈夫でした。というか、むしろハマってしまった。
癖が強いのは間違いない。だが、取っつきにくそうな人に思い切って話しかけたら予想外に話の通じる相手だった時のように、私の中では好感度が急上昇した。
理由はいくつかある。
ひとつは、物語の筋が素直で分かりやすく、登場人物の置かれた状態や感情を追いやすかったこと。登場人物が少ないし、歌詞がわりと説明的(悪い印象はない)なので、理解が楽だった。
それと、私が観た範囲では他のミュージカル映画よりも歌の割合がさらに高い印象だったが、そのことでかえって作品世界に入り込みやすかったように思う。
個人的にミュージカルは嫌いではないが好んで見るわけでもない。ミュージカルが苦手な人が引っ掛かることのひとつに「普通に話していた人物が『突然』歌い出す」という点があり、その気持ちも割と分かる。
本作は、ゴシップ誌の体のナレーション以外、登場人物はほぼ歌しか歌わない。ベッドシーンでさえ歌っている。思えば、普通の会話と突然の歌との間を往復する瞬間に一番違和感が発生しやすいのではないか。それがほぼないため、歌で感情表現し話を進めていくという文法に2時間ひたすら浸っていればよく、むしろ観やすかったような気がする。(でも本当に苦手な人はやっぱり駄目なのかも知れないが)Sparksの音楽も耳に残る感じでよかった。
そしてアダム・ドライバーの演技とマリオン・コティヤールの歌。何度か出てくるスタンダップコメディの舞台のシーンはドライバーの一人芝居だが、悲劇が似合うクズ男ヘンリーの野心や焦り、戸惑いなどが詰め込まれていて圧巻だ。役柄のせいかはたまた無駄に脱ぐシーンが多いせいか、彼のセクシーさも他の作品に増して際立っている。
コティヤールの繊細な歌声にも聞き惚れる。46歳とは思えないスタイルと美しさ。背泳ぎしながらでも歌います(吹き替えではなく、実際泳ぎながら歌っている)。作品の癖が合わなくても、この二人の演技と歌で見応えは十分担保出来ると思う。
アネットが人形であったことの必然性が最後にちゃんと分かったのもよかった。両親の操り人形から脱却した生身のアネットの芸達者ぶりには度肝を抜かれた。ラストしか出てこないのがもったいないほど。人形はCGではないらしい。パペットを動かすにも今や色々なテクノロジーがあるだろうけれど、動きがとても自然でファンタジー感があった。
産婦人科医役で古舘寛治が出てきて歌まで歌ったのもびっくりした。調べたらこの方、ニューヨークで演技を学んで英語ペラペラ、海外作品の出演も過去に経験があるとのこと。存じ上げませんでした。水原希子は鑑賞中は気付かなかったけれど、後で確認したらヘンリーを告発する女性6人が映る画面の左上にいましたね。
一般的な映画の表現のように、「物語の中」にいる状態から始まって終わる形では、人形の登場を筆頭とした劇中の突飛な表現や第四の壁を超えてくる歌詞に、冷めるような違和感を覚えたかもしれない。あのオープニングとカーテンコールのようなエンドロールは単なるお遊びではなく、「これはお芝居です」と明言することで、細かいリアリティを気にしがちな現実世界に慣れた目のピントを調整する役割も果たしているように思えた。
好き嫌いは分かれるだろうが、うまく当たれば特別な1本になるタイプの作品。
ニコさん、素敵なレビュー!私の思ったまんまを言葉にしてくださってます!
私は事前情報を入れずに見ましたが、最初はこれ苦手かも?と思いつつも最後にはしっかりハマってました😁
アダムドライバーかっこいいですよね😍